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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「清原さん、ひとつ言っておきますよ」PL学園・伝説のスカウトが清原和博の両親に伝えた忠告「あっと驚かされるのがドラフトなんです」
posted2022/10/20 11:01
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
JIJI PRESS
ベストセラー『嫌われた監督』で大宅賞、講談社ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞、ミズノスポーツライター賞の4冠受賞を果たした作家・鈴木忠平氏の待望の新刊『虚空の人 清原和博を巡る旅』より一部抜粋してお届けします。(全2回の前編/後編へ)
ドラフト会議の当日、井元俊秀はいつものように学園の始業前に目を覚ました。教鞭を執るわけではなく校舎に通う義務もないのだが、それが習慣になっていた。
井元の自宅は教団の敷地内にあった。平らな屋根を乗せた、官舎のような建物である。朝食をとって新聞にひと通り目を通した。それから雑事をこなすと午前10時半をまわっていた。井元はテレビの電源を入れた。まもなくドラフト中継が始まる時刻だった。それを眺めるのは毎年のことだった。新入生を勧誘し、卒業後の進路を導いてきた井元にとってドラフトは、自分の仕事にひとつの結果が出る日だった。
実況のアナウンサーと解説者がスーツ姿でスタジオに並んでいた。ほどなくして会場である東京・飯田橋のホテルグランドパレスの中継映像が目に飛び込んできた。12球団のスカウトたちが顔をそろえている。これまで何度も見てきた光景だったが、この年に限ってはどこか違和感があった。
「井元先生、この件からは降りてもらえますか」
学園の校長から「折り入って話がある」と呼ばれたのは、ふた月ほど前のことだった。心当たりもなく指定された会議室のドアを開けると、すでに井元以外の人間は集まっていた。校長に教頭、野球部の後援会長、監督と部長もいた。さらには清原と桑田の両親まで顔をそろえていた。
「どうしたの?」
井元が怪訝そうな顔をすると、校長が切り出した。
「じつは井元先生、野球部員の進路についてはずっと先生にやってもらってきましたけど、清原と桑田については自分たちがやります。学校が責任を持ってやりますので、この件からは降りてもらえますか」
井元はすぐには事態が飲み込めなかった。
「え? 降りるんですか? なんで?」
校長は表情を変えずに続けた。