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「ぼく…密約なんてしてません」PL学園・桑田真澄がドラフト当日に明かした巨人への思い「清原よりもぼくを選んでくれた。嬉しいんです」

posted2022/10/20 11:02

 
「ぼく…密約なんてしてません」PL学園・桑田真澄がドラフト当日に明かした巨人への思い「清原よりもぼくを選んでくれた。嬉しいんです」<Number Web> photograph by SANKEI SHIMBUN

1985年11月20日のドラフト会議で巨人に1位指名を受け、記者に囲まれ質問されるPL学園・桑田真澄

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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SANKEI SHIMBUN

 1985年11月20日のドラフト会議当日。その年の甲子園で劇的な優勝を遂げたPL学園の清原和博と桑田真澄の周囲には、さまざまな思惑が渦巻いていた。「第1回選択希望選手。読売ーー」緊張感が漂う中で読み上げられた名前に誰もが耳を疑った。KKを巡るドラフトの真相に迫る。
   ベストセラー『嫌われた監督』で大宅賞、講談社ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞、ミズノスポーツライター賞の4冠受賞を果たした作家・鈴木忠平氏の待望の新刊『虚空の人 清原和博を巡る旅』より一部抜粋してお届けします。(全2回の後編/前編へ)

 校舎ではまだ授業中のはずだった。不思議に思ってドアを開けると、そこに桑田が立っていた。色白の顔がさらに色を失っていた。

「どうしたんだ?」

 思わず問うと、桑田は井元の目を見て言った。

「先生、ぼく......密約なんてしていません」

 よく見ると足元は上履きのままだった。教室から走ってきたのだろう、息も微かに上がっていた。孤独に立ち尽くす桑田の姿から井元はすべてを察した。 桑田は巨人から1位で指名されたことを授業中に知ったのだ。そして、おそらくは野球部の仲間たちから疑惑の目を向けられた。何か胸に刺さることを言われたのかもしれない。その空気に耐えきれず教室を飛び出し、そのままここへやってきたのだ。

「わかった。わかったから、とにかく入れ」

 井元は桑田を玄関の中に入れるとドアを閉めた。そして頭を巡らせた。これから何が起こり、それにどう対処すべきか。

なぜ桑田を巨人だけが強行指名できたのか…

 おそらくマスコミは疑惑の目を向けるだろう。なぜ早稲田への進学を表明していた桑田を巨人だけが敢然と強行指名できたのか。じつは桑田は裏では巨人と繫がっていたのではないかーー。 

 マスコミだけではなく、他球団からもそうした声が出るかもしれない。場合によっては学校ぐるみの工作だと考える者もいるかもしれなかった。

 だから井元は桑田に言った。

「いいか、記者会見では何を訊かれても、巨人に指名されて困っています。戸惑っていますと、そう言うんだぞ」

 それは桑田と清原を守るためであり、野球部を守るためでもあった。

 だが桑田は言った。

「なぜですか?」

【次ページ】 「先生、ぼくは嬉しいんです」

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