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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「ぼく…密約なんてしてません」PL学園・桑田真澄がドラフト当日に明かした巨人への思い「清原よりもぼくを選んでくれた。嬉しいんです」
posted2022/10/20 11:02
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
SANKEI SHIMBUN
ベストセラー『嫌われた監督』で大宅賞、講談社ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞、ミズノスポーツライター賞の4冠受賞を果たした作家・鈴木忠平氏の待望の新刊『虚空の人 清原和博を巡る旅』より一部抜粋してお届けします。(全2回の後編/前編へ)
校舎ではまだ授業中のはずだった。不思議に思ってドアを開けると、そこに桑田が立っていた。色白の顔がさらに色を失っていた。
「どうしたんだ?」
思わず問うと、桑田は井元の目を見て言った。
「先生、ぼく......密約なんてしていません」
よく見ると足元は上履きのままだった。教室から走ってきたのだろう、息も微かに上がっていた。孤独に立ち尽くす桑田の姿から井元はすべてを察した。 桑田は巨人から1位で指名されたことを授業中に知ったのだ。そして、おそらくは野球部の仲間たちから疑惑の目を向けられた。何か胸に刺さることを言われたのかもしれない。その空気に耐えきれず教室を飛び出し、そのままここへやってきたのだ。
「わかった。わかったから、とにかく入れ」
井元は桑田を玄関の中に入れるとドアを閉めた。そして頭を巡らせた。これから何が起こり、それにどう対処すべきか。
なぜ桑田を巨人だけが強行指名できたのか…
おそらくマスコミは疑惑の目を向けるだろう。なぜ早稲田への進学を表明していた桑田を巨人だけが敢然と強行指名できたのか。じつは桑田は裏では巨人と繫がっていたのではないかーー。
マスコミだけではなく、他球団からもそうした声が出るかもしれない。場合によっては学校ぐるみの工作だと考える者もいるかもしれなかった。
だから井元は桑田に言った。
「いいか、記者会見では何を訊かれても、巨人に指名されて困っています。戸惑っていますと、そう言うんだぞ」
それは桑田と清原を守るためであり、野球部を守るためでもあった。
だが桑田は言った。
「なぜですか?」