4年時、周囲から言われた「顔が怖い」

　とはいえ、グラウンドでは闘争心のコントロールは難しい作業なのだろう。

　4年春のリーグ戦。ベストナインを獲得した前年秋と打って変わり、2割2分9厘と打率が急降下した。「完全に気負い過ぎました」。理由は自分でもわかっていた。

　戦力が入れ替わったこともあり、春の早稲田の評価は低かった。「5位だろう」。そんな声に憤り、空回りする。そして実際に下馬評通りの結果となり、自分も打てなかった。

「顔が怖い」

　リーグ戦のさなか、自分と同じドラフト候補でもある蛭間拓哉からそう言われた。インターネットで中継を見てくれていた友人、親からも「思い切ってやり。顔が怖いわ」と指摘される始末だった。

これからの野球人生について

「『キャプテンだからやらないと！』みたいな。そこに囚われすぎたのもありましたよね。春は『自分が打てなくてもチームが勝てばオッケー』って気持ちだったんですけど、結果的に逆効果になって。暗くなったり、怖そうに見えたり、表情にも出てしまったというか。だから、秋は『自分が打てばチームも勝てる』ってスタンスでやってます」

　思考の転換を果たしたとはいえ、秋も自身とチームは熾烈な戦いの渦中にいた。やはり中川は、グラウンドに立てば燃える。そのリーダー気質は、もはや抗うことなどできないほどの血肉となっているのだろう。

　中川の野球人生は、まだ続く。だから、勝手ながらも老婆心を働かせてみた。

　そろそろ、自分のために野球をやってもいいのではないか？

　ははははは！　中川が笑う。的を射た質問だったからか、それとも、はぐらかすためのリアクションなのか。真意は定かではない。

　ただ、「はい、そうですね」と答える中川の首肯は力強く、眼光も鋭かった。

©Hideki Sugiyama

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