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「清原、ナイスバントだよ!」巨人時代の”番長”清原和博に長嶋茂雄監督が放った一言「ああ、この人にはどうあっても敵わないんだと…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2022/09/07 11:20
巨人時代の清原和博
同じようなことは夜の新宿でも昼間の羽田空港ロビーでもあった。これが世の中の自分に対する視線なのだと突きつけられる思いだった。
予想通りの「おしっこ出してもらえますか?」
署に着くと、予想していた通りの文句が待っていた。
「おしっこ出してもらえますか?」
採尿キットを渡された。
それから清原はペットボトルの飲料水と缶コーヒーを何本か空けるとトイレに入り、警官の見ている前で放尿した。
それが終わると薬物検査の書類に署名と捺印をして結果が出るのを待った。白であることが証明され、署をあとにするころには3時間が経過していた。
最後に警官は言った。
「ご協力ありがとうございました。おしっこ持って帰りますか?」
社会はことあるごとに、清原に潔白の証明を求めた。黒を白に変えた証を示せと迫った。その一方で決して消えない烙印を押してもいた。
あえて酒席の途中で覚醒剤中毒だった自分を垣間見せるのは、そうした世の中の視線に対する抵抗であり、目の前の相手が心の中で自分に烙印を押しているかどうかを確かめるためだったのかもしれない。
清原が差し出した腕を記者は見つめていた。「そうなんですか」とまじまじと眺めていた。清原はさりげなくその表情を観察したが、彼の瞳に境界線は見えなかった。心が遠ざかっていくことはなく、白木のカウンターに流れる空気も変わらなかった。少なくとも清原にはそう感じられた。それで十分だった。
陶酔が清原を満たしていた。馴染みの曲を聴きながら昔の話だけをしていたい。そんな夜だった。
鮨がひと通りすると、清原は席を立った。
「もう一軒行こう。知り合いの店が近くにあるんや」
アルコールについては医師から釘を刺されていた。口にするなとは言わないが、量は控えなければならないと何度も忠告を受けていた。だが清原は、もう少しだけこの夜に浸っていたかった。
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