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[三つ巴の時代の内幕]落合龍との知略戦 読んで、探って、騙されて
posted2022/09/08 07:00
text by
赤坂英一Eiichi Akasaka
photograph by
Koji Asakura / Hideki Sugiyama(2)
「あの頃は面白かったな。いつも駆け引き、読み合い、腹の探り合いをやってたからな。今の野球にはない醍醐味があったわ」
2004年から5年間、阪神監督として采配を振った岡田彰布は、落合博満監督率いる中日との戦いをそう振り返った。
岡田は落合と同じ'04年に監督に就任し、2年後の'06年には巨人の原辰徳監督も復帰を果たす。以後、岡田が退任する'08年まで、セ・リーグではほぼ同世代の監督による三つ巴の熱戦が展開された。'06年は落合、'07、'08年は原が制している。
落合との駆け引きは試合前から始まっていた、と岡田は言う。当時のセ・リーグは予告先発制ではなく、中日の先発投手が右か左かを探り当てるのも一苦労だった。
「落合さんの先発隠しは徹底しとったよ。朝刊スポーツ紙(6紙)の先発予想はいつもバラバラ。中日スポーツはようウソ書いてるし。そやからスコアラーが早めに球場へ行って、球団ブースから双眼鏡で外野におる中日の投手陣を観察するんや。でも、右と左が同じ調整して、同じ時間にふたり並んで帰っていく。どっちが先発するんか、見てるだけじゃわからん。まあ、こっちも同じようなことやってたんやけどな」
落合監督の8年間、中日先発陣には川上憲伸、山本昌、朝倉健太、中田賢一、吉見一起ら強力な投手が揃っていた。岡田監督の阪神も井川慶、下柳剛、安藤優也、福原忍ら盤石の布陣。常にロースコアのゲームになるため、攻撃でも1点を争う駆け引きが明暗を分ける。そこで岡田は、ベンチの落合が笑みを浮かべる癖に目をつけた。