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「野村さんに手紙を書きたいんやけど」清原和博が巨人・番記者に相談した野村克也監督への想いと銀座の夜「久しぶりに、会わないか?」
posted2022/09/07 11:19
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
BUNGEISHUNJU
ベストセラー『嫌われた監督』で大宅賞、講談社ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞、ミズノスポーツライター賞の4冠受賞を果たした作家・鈴木忠平氏の待望の新刊『虚空の人 清原和博を巡る旅』より一部抜粋してお届けします。(全3回の2回目/#1、#3を読む)
「お客さん、ここからは車が入れないんです」
タクシーの運転手は後部座席を振り返ると、そう言った。車のテールライトが連なる中央通りから銀座4丁目の交差点を左折してすぐのことだった。 ここからは歩いていこう。清原和博はそう決めた。勘定を済ませるとタクシーを降りた。2月半ばの西5番街通りはほどよく空いていた。整然と並んだ銀座の幾つかの通りのなかでもとくに落ち着いた雰囲気があった。夕闇のビルに光るネオンとその下を行き来する和服姿の女たちがこの街に夜の到来を告げていた。
清原はいつものように黒いTシャツ姿で歩行者天国となった通りの真ん中を歩いた。真冬の半袖姿は人目を引いたが、この日は視線を浴びるのが億劫ではなかった。それは1人ではなかったからかもしれない。
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清原の横にはスーツ姿の男がいた。読売ジャイアンツにいたころから馴染みの新聞記者であった。2つ歳下、角張った顔に愛嬌のある笑みを浮かべたその記者と顔を合わせるのは数年ぶりだった。少なくとも逮捕されてからは初めてだった。
記者はかつて華やかなスタジアムでそうしていたように清原の半歩後ろをついてきた。
レンガ模様の舗道には凝った装飾の街灯が上客を迎えるかのように恭しく立っていた。艶やかな光と人々の視線、夜の銀座は清原をあのころに戻ったような気分にさせた。
目当ての鮨屋は通り沿いの地下にあった。ビルの階段を降りて扉を開けると、磨きあげられた白木のカウンターが待っていた。清原は記者と並んで座った。