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「そんなこと、できるんですか?」清原和博が甲子園100回大会に向けた特別な思い「息子が生まれたとき、この子が高1になったら…」
posted2022/07/30 17:02
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Takuya Sugiyama
ベストセラー『嫌われた監督』で大宅賞、講談社ノンフィクション賞、ミズノスポーツライター賞の3冠受賞を果たした作家・鈴木忠平氏の待望の新刊『虚空の人 清原和博を巡る旅』より一部抜粋してお届けします。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
私が初めて清原と顔を合わせたのは2017年の初夏だった。逮捕されて以来、世間から身を隠してきた清原にインタビューをすることになったのだ。
あの新幹線の電話から10カ月が経っていた。
インタビューの前に私と編集長は2人の男と会っていた。最初に指定されたのは六本木のカフェで、そこにはマネージャーとして窓口になっているという人物がいた。
「清原はうちで面倒見とるんです」
「清原はほとんど人と会っていない状態だから、あんまりプレッシャーになるようなことを訊いてもらっちゃあ困りますよ」
髪を金色に染めたラフな服装のその人物はまず釘を刺した。それから私たちを事務所のボスに引き合わせるため、近くのホテルへ向かった。
天井の高いホテルラウンジで待っていると、白髪と浅黒い肌が印象的な老紳士が現れた。芸能事務所の会長として世に名を知られているその人物は異様に大きな眼で私たちを見た。
「みんな清原の周りから離れていきました。いまはうちで面倒見とるんです」
権力者にしては傲慢なところのみえない静かな口調だった、それでいて強制力を感じさせる響きがあった。
「よろしければ社会に戻るために力を貸してやってください」
老紳士の言うことと、私が書こうとしていることにはわずかに齟齬があるような気がしたが、私たちは頷くしかなかった。
最後にマネージャーらしき人物が付け加えた。
「なるべく人目につかない場所でやらせてもらいます。それに、あまりにも体調が良くない場合はキャンセルということもありますから」
清原はまるで壊れた人形のように扱われていた。自らの意思に関係なく誰かに捨てられ、そして誰かに拾われていた。
インタビューが行われたのはそれからさらに数日後だった。指定されたのは同じ六本木のホテルだった。かつての野球界のスターは東京の真ん中、林立するビル群の中に匿われていた。