だが、その後は、智辯和歌山は、チャンスらしいチャンスさえつかめない。この夏の田中は、ストレートは140kmちょっと、スライダーも130kmちょっとだった。それでも勝負どころのボールは違ったという。6回表、やはりスライダーで空振り三振に倒れた古宮が言う。

「ひざ元のスライダーだったんですけど、これぐらいだったら三振しないなと思った。でも、最後の最後までボール見て、キャッチャーミットに入る手前でカットしようと思ったら、当たらなかった。最後の最後で、もう一つ、曲がりましたね」

　中盤以降、田中は内よりの直球も多投し始める。古宮は、こうシャッポを脱ぐ。

「押されるわ、なくなるわ、でした」

高嶋監督「こら負けたと思った」

　高嶋も、田中という壁の分厚さと、高さを、改めて実感していた。

「田中に代わったとき、選手に『いけるか？』って聞いたら、『消えます』って。その時点で、こら負けた思った。ピンチになればなるほど、精度がよくなるし、スピードも速くなる、と」

　7－4と駒大苫小牧リードのまま8回に入ると、小雨がぱらついてきた。古宮はすでに負けを覚悟していた。

「打倒田中で1年間やってきて、智辯のプレッシャーとも戦ってきて、雨が、お疲れさん、もうがんばらなくてもいいよって言ってるようでしたね」

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