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甲子園で対戦した智辯和歌山バッターたちの“田中将大評”「すとんて消えて」…高嶋仁監督が北海道で聞いた「待つ」の意味
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2022/08/17 17:00
2006年夏、打倒・田中将大に燃えた智辯和歌山の戦いを振り返る
田中将大の登場。いきなり一塁ランナーを…
ただ、駒大苫小牧の先発は疲労の色が濃い田中に代わって、菊地翔太だった。しかし、立ち上がりで失点し、すかさず岡田雅寛にスイッチ。しかし、その岡田も2失点し、2回表、ノーアウト一塁、二塁の場面で、ついに田中が登場する。
打席には、この大会、ここまで4本塁打と当たっていた3番・廣井を迎える。その立ち上がり、高嶋は投球とは違うところで、田中のすごさを見せつけられた。
「マウンドに上がるとき、ファーストと二言三言、言葉を交わしとった。そうしたら、いきなり、一塁ランナーが、けん制でタッチアウト。そんなにリードしてなかったんですけどね。さすが大リーグに行く選手ですよ。そういうところも、うまい」
智辯の3、4番は田中をどう見たか
田中は廣井をスライダー攻めで、まずは一塁ファウルフライに打ち取る。廣井の弁だ。
「真っすぐはそこそこ自信あったんですけど、もともとスライダーのいいピッチャーは打てないんですよ。外にキュッと曲げられたら、ぜんぜん打てない。甲子園は、たまたま打ててただけ。この試合は、もう魔法が解けてましたね」
堂々たる体躯と、強面な風貌に似合わず、廣井は、どこまでいっても「僕、いつもは打てないんですよ」と控えめだった。喫茶店で話を聞いたのだが、話をしているうちに、まるでザリガニが水槽の隅に逃げ込むように、ソファーの隅へ隅へと大きな体を寄せていった。
続く4番・橋本はスライダーを打ち損じ、二塁フライに倒れる。
「廣井に、どうやって聞いたら『そこまでやない』って言ったのを覚えてる。確かに、マシンの軌道の方がすごかった。でも、プロのスライダーもそうですけど、曲がりの大きさより、フォームが大事なんです。真っすぐと同じような腕の振りで投げられると、目の錯覚で、めちゃくちゃ曲がっているように感じてしまう」
その橋本は4回、外のスライダーをしぶとくライト前に落とし、田中から唯一となる得点を叩き出した。