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プロ野球スカウトも驚いた俊足「走塁能力はプロでも一級品」中央大時代はレギュラーになれなかった23歳が“ドラフト候補”に急浮上
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/05/27 17:01
トヨタ自動車・坂巻尚哉中堅手(23歳・174cm81kg・右投右打)。写真は千葉経済大付高時代。その後中央大に進み、昨年4月にトヨタ自動車入り
「バッティングに意外性がありますよ。今日の飛距離もビックリしたけど、ライトに大きく持っていくこともできる。トヨタに入って使ってもらって、ぐんぐん野球の世界を広げている。これだけフレッシュな外野手、社会人では彼だけじゃないですか。あとは、スローイングの精度が上がってくれば」
「“ホームラン”は切り捨てることにしています」
確かに東北大会での坂巻は、試合前のシートノックから、バックサード、バックホームの軌道がブレがちだったのだが……。
「ああ、あれ……僕、4月の岡山大会で外野フェンスに激突して、右肩を脱臼したんです」
肩を脱臼して20日足らずで、センターからバックホームしているのだから、逆に「強い肩」の持ち主に違いない。
「フリーバッティングなら、狙ってスタンドまで持っていけるぐらいのパンチ力はあるつもりですけど、自分のプレースタイルから、“ホームラン”は切り捨てることにしています。自分の場合、シングル(ヒット)はツーベースだと思ってますから。それで、後ろの打者にタイムリー打ってもらえば、同じことなんで。自分は下位を打っていますが、出塁して、足を使って相手ピッチャーをなるべく消耗させて、上位に回してタイムリーを奪う。これは藤原(航平)監督からの指示でもあるんです」
右方向へのバッティングを、現在のテーマにして打ち込んでいるという。
「同時に、ファール打ちの練習もそれに加えて。呼び込んで、当てにいかずに振り抜くイメージで。一塁側にいいファールが打てれば、それが右方向への痛打につながっていくんで。とにかく、意味のない打席は作りたくない。自分の打席に、何かしら意味を持たせる。何か起こるぞって、チームに思わせる選手になりたいですから。もっと、具体的にいえば、三振しない選手ってことです」
社会人野球2年目。こっち側から見れば、新しい野球の舞台に、キラキラした気分でプレーしている時期だろう……などと思ってしまうのだが、意外とそういう選手には、なかなか出会わないのを残念に思っていた。
こんなに弾けるような意欲と活気を感じさせてくれる若者に、ひさしぶりに出会った。
「トヨタに入ってから、本物の野球を教わったような気がしています。養われているっていうんですか……。ありがたいです。幸せです」
自分からそんな思いをうちあけてくれた。その思いは、一生忘れちゃいけない。一生、大切にしなきゃいけない。
まもなく、都市対抗予選から本戦。年に一度の「大仕事」が待っている。そこで、もうワンプッシュ、ツープッシュ……プロの目も、そこを楽しみに期待しているはずだ。