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プロ野球スカウトも驚いた俊足「走塁能力はプロでも一級品」中央大時代はレギュラーになれなかった23歳が“ドラフト候補”に急浮上
posted2022/05/27 17:01
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Sankei Shimbun
左中間に絶好の角度で上がった打球が、うす曇りの空に溶けるように、途中から見えなくなった。
両翼100m、センター122m……広い球場の左中間スタンドの、さらに最上段に着弾したのが、やっと見えた。
宮城・石巻市民球場。
社会人野球東北大会、トヨタ自動車とJR北海道硬式野球クラブの試合。開始早々、最初の打席だった。トヨタ自動車・坂巻尚哉中堅手(23歳・174cm81kg・右投右打)の打球に驚いた。
2021年に中央大学から入社して2年目の外野手。この日は8番センターで出場していたが、じつは実戦のプレーを見るのは初めてだった。それどころか、学生時代も坂巻選手の「1試合」を丸々見たことはなかった。
中央大時代、レギュラーになれなかった理由
「坂巻尚哉」との出会いは、学生野球雑誌の写真入り選手名鑑がきっかけだった。その名鑑には、経歴だけでなく、その選手の身体能力までもが、数値で掲げられている。
50m5秒7、遠投120m……とんでもない能力を持った外野手が、しかしほとんどリーグ戦に出場していない。当時の中央大には、ほぼレギュラー固定の3人の外野手がいたのだ。
日本ハムにドラフト2位で進んだ五十幡亮汰(佐野日大高)、シュアな打撃で社会人・JR東日本に入社した倉石匠己(東海大市原望洋高)、そして2年後輩で今季ドラフト候補にも挙げられる右の大砲・森下翔太(東海大相模高)。
「2年生の時に足の肉離れで半年間プレーできなかったこともあるんですけど、やっぱり、オープン戦では打ててもリーグ戦で結果が出なかったのが、信頼を得られなかった原因だったと思います。高校の頃は、1年の秋から4番打ってましたから、不甲斐ない自分がメッチャクチャ悔しかったですね」
思いが伝わった。今回話を聞かせてくれた坂巻。その声がガラガラにかれていた。
「はい、昨日の練習で、ちょっと気合い入り過ぎちゃって……」
そう言って、高校生みたいに笑っている。
なぜトヨタは坂巻の才能に気づけたのか
社会人野球の名門・トヨタ自動車。広島カープの守護神に台頭した栗林良吏投手をはじめ、多くのプロ野球選手を輩出し、都市対抗野球では毎年必ず優勝候補に上がる。エリート集団の「チーム・トヨタ」に、フレッシュなヤツが現れた。