「牧（秀悟・現DeNA）と一緒に参加した（トヨタの）練習会で、結構、自分の長所をアピールできたみたいで。それで、入れていただいたんだと思います。1年目の去年からプロ志望だったんですけど、ちょっと自分を追い込み過ぎて、コンスタントに結果が出せませんでした。コーチの清水（明彦、国士舘大）さんや辰巳（智大、慶應義塾大）さんと話し合って、ただ焦っても意味がない。自分のプレースタイルを見定めて、それでトヨタにどれだけ貢献できているのか……1年間、それができたら、プロも“坂巻尚哉”という存在を認めてくれるんじゃないか。プロに行きたい、行きたい……より、まず自分が何をやるか。それで、自分の最大の武器だと思っている“足”を生かしたバッティングっていうことに絞って頑張ってるんです、今年は」

二塁盗塁「3秒09」にギョッとした

　左中間弾の前日、東芝との試合。

　途中から出場した2打席目、外のボールに食らいつくようにしてライト線にライナーで持っていった実戦力の高いひと振りと、あっという間に二塁に滑り込んだ走りのスピード。50m5秒7……とんでもなく速い。

　一塁駆け抜けが右打席から4秒1前後。右打者なら4秒3で速いといわれる中で、むしろ左打者に近いスピード。セーフティバントも打球を殺しさえすれば、余裕でセーフになっている。

　驚いたのは、二塁盗塁のスピードだ。私の計測で「3秒09」とでたので、ギョッとしたら、ネット裏のスカウトたちが、ストップウォッチを見せ合って、あきれたように笑っている。聞けば、そんなに変わりはなかった。以前聞いた話だと、元阪神・赤星憲広氏で「3秒2」だったそうだ。

「たとえば、盗塁についても、完璧なスタートができないと盗塁はきめられないって、以前は考えていて。ピッチャーのクセを盗もうとか、そっちのほうに気が行って。中途半端なスタートになってしまって、二塁で刺されたりしてたんですけど、逆の発想を教えてもらったんです」

　普通にスタートをきれば、ほぼセーフのスピードは持っている。

「だったら、ピッチャーがホームに投げるのを確信してからスタートをきればいいじゃないか……ってことなんです。これなら100％のスタートができますから、成功率もぐっと上がって」

　ただ彼自身が語る2塁盗塁自己ベストは、土のグラウンドで「3秒27」とのこと。

「石巻の球場は人工芝だったんで、少し速くなったのかな」

　いずれにしても、「実戦」の中ではじき出したベストタイムなのだから、間違いなくすごい。

プロ野球スカウト「これだけフレッシュな外野手は彼だけ」

「実は、あのホームラン、社会人に入って初ホームランだったんです」

　先のJR北海道との試合。あっという間にダイヤモンドを一周してきた弾むようなスプリントにも目を奪われていた。

「自分では入った！と思ったんですけど、まだ経験がなかったので、フェンス直撃だったら、最低でも三塁打にしなきゃならないんで……」

　高校生みたいに、また笑っている。

「走塁能力はプロでも一級品ですね。速いだけじゃない、一瞬の野球カンと思いきりがある」

　ホームランの試合に来ていたスカウトの方も、やはり社会人になってから初めて「坂巻尚哉」のプレーを見たという。

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