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「落合監督はちゃんと見てくれて…」元審判が感謝する“吉見一起の微妙なストライク判定”「おめえのせいじゃねえから、気にしないでやれ」
text by
佐々木昌信Masanobu Sasaki
photograph byTamon Matsuzono
posted2022/05/05 17:01
中日時代の落合博満監督
なぜならストレートと思い違いをしてしまうほど、スライダーがギリギリまで曲がってこない。ベース通過直前でボール球になる。思わず右手を「ストライク!」と上げてしまい、「しまった」ということが結構ありました。
谷繁「佐々木さん、いまの、ちょっと広過ぎだわ」
だから、正直な性格の谷繁捕手に「佐々木さん、いまの、ちょっと広過ぎだわ(苦笑)」とよく言われました。吉見投手には私の「ストライクを取る傾向」をうまく利用されていた気がします。
その「9イニング平均与四球率は1.57個」の抜群のコントロールが武器だけに、球審として困ることもありました。さすがの吉見投手も人間ですから年に数回、「立ち上がり」が悪くてストライクが入らないときがあります。アウトコースのスライダーがボール1個分外れると、さすがにプロの球審は「ストライク!」とは言いません。
ところが「吉見投手はコントロールが抜群」という大前提で誰もが見ているために、際どいボールの「見極め」ができない球審が下手ということになってしまうのです。
「佐々木球審、きょうのアウトコース、ちょっと辛くねえか?」
ダグアウトから球筋の高さはわかっても、コースはわかりません。しかし、さすが落合博満監督はちゃんと見ていてくれました。5回表終了時の選手交代のときです。
「外(外角)、全然外れてるのか」
「全然です。きょうは早く曲がり過ぎです」
「だろうな。おめえのせいじゃねえから、気にしないでやれ」
<#2、#3へ続く>
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