プロ野球PRESSBACK NUMBER
「落合監督はちゃんと見てくれて…」元審判が感謝する“吉見一起の微妙なストライク判定”「おめえのせいじゃねえから、気にしないでやれ」
text by
佐々木昌信Masanobu Sasaki
photograph byTamon Matsuzono
posted2022/05/05 17:01
中日時代の落合博満監督
特に右バッターのインコースのボールゾーンからストライクになるスライダーは抜群でした。曲がりが遅いので、バッターはボール球だと思って必ず見送ります。手を出してもファウルにしかなりません。そんな日は、左バッターの外から入ってきてストライクになる、いわゆる「ハチマキ」スライダーも切れていて無敵でした。
ただ、スライダーを続けても空振りは取れないので、追い込んだら谷繁元信捕手がゴロを打たせる配球をしていました。芸術的なピッチングを展開する。だから「このバッテリー、頭いいな」と思いながらジャッジしていました。
当時、吉見投手と前出ヤクルト・館山投手が08年から5年連続2ケタ勝利の最多勝争い。吉見投手が09年と11年にタイトルを獲得しましたが、右ヒジを痛めて、現役通算15年で90勝56敗。100勝に届いていないのは、一時の輝きからして意外だったほどです。
コントロールが抜群なため、逆に困った吉見一起
ADVERTISEMENT
マスコミの方はよく「ボール1個分の出し入れで勝負する」というような表現を使いますが、ボールの直径は約7センチです。
日本プロ野球やメジャーリーグのホームベースは周囲に黒い縁が付いていて、指1本分くらい約2センチです。ここにかすったボールは英語で「オン・ザ・ブラックス」と言って、ストライクを取りましょうというのが現在のジャッジの流れです。
ただし、ルールブック上は一応ボール。「アメリカではそこはストライクだよ」という、いわゆる暗黙の了解事項なのです。
私の場合、その「オン・ザ・ブラックス」が若干広がっていってしまうクセも正直あったので、調整しながらやっていました。
「1回表はここをストライクに取ったのだから、2回以降も同じようにストライク」
「間違いは1球で正す」
両方の見解がありますが、私は後者。そして、私はどちらかと言うと「アウトコースを広めにストライクに取る球審」として、12球団のキャッチャーに知られていました(苦笑)。
吉見投手の場合は正しいストライクゾーンに戻すのが難しかった。