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「あれ? 駅のポスターにラオウがいない」オリックス杉本裕太郎の活躍は“嬉しい誤算” 30歳の大ブレイクをみんなが喜ぶワケ 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byNaoya Sanuki

posted2021/12/21 11:05

「あれ? 駅のポスターにラオウがいない」オリックス杉本裕太郎の活躍は“嬉しい誤算” 30歳の大ブレイクをみんなが喜ぶワケ<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

ホームラン王に輝くなどリーグ優勝に貢献したオリックス杉本裕太郎。プロ6年目、30歳の大ブレイクだった

 小学1年生で野球を始めた時から、杉本はホームランの虜だった。

「ホームランを打つのが楽しくて野球を続けているようなものでした。ホームランを打つ気持ちよさとか、楽しさがなかったら、たぶんここまで野球を続けていなかったと思います」

 子供の頃は、ホームランを打つと、両親がご褒美に当時流行っていた遊戯王のカードを買ってくれた。それも楽しみだった。

 きっと全国に山ほどいたであろうそんな野球少年が、30歳で夢をかなえた。

「ホームラン王は、夢見ていたタイトル。まさか獲れるとは思ってなかった。すごくびっくりしています」

 オフシーズンも、チームの顔としてテレビやイベントに出演し活躍する杉本の姿を見て、事業企画部の後藤は嬉しそうに言う。

「杉本選手は昔から、我々がお願いする撮影や取材にもものすごく協力的で、こちらの意図をすぐに理解してくれて、サービス精神も旺盛で非常にありがたい存在です。人懐っこいキャラクターはずっと変わらない。今年、タイトルを獲って、メディアにも注目されて……我々もすごく嬉しいですね。

 “ラオウ”のこともずっと言い続けてきて、今年、本家とコラボレーションもさせていただけた。やっぱり言い続けることは大事なんだなと思いました」

 入団当初から、杉本は人気漫画「北斗の拳」の登場人物「ラオウ」を敬愛していると公言し、チーム内では「ラオウ」と呼ばれていたが、今年の活躍でその愛称も浸透した。ついに本家の「北斗の拳」とコラボしたグッズも発売された。

 本塁打を打った際にベンチ前で右腕を掲げる儀式“昇天ポーズ”も広く認知されるようになった。CS第2戦で本塁打を放った時には、京セラドームの5階席のファンまで身を乗り出して、ベンチに帰ってきた杉本に注目し、タイミングを合わせて一緒に“昇天ポーズ”を決めた。

 杉本は「最初は自分1人しかやってなかったのに、みんながやってくれるようになって、めっちゃ嬉しいです」と感慨深げに話した。

後藤さんの悩み「活躍した選手がたくさんいる」

 才能豊かな若手の台頭はもちろんチームにとって大きな光明だが、二軍でくすぶっていた30歳のブレイクに、自分を重ねて見ているファンも多いのではないか。

 課題に向き合い諦めずに努力し続けたこと、そして「こいつをなんとかしてやりたい」と周囲に思わせる人柄が、30歳での開花に導いた。

 今、後藤は嬉しい悩みの真っ只中だ。来年の装飾物や広告などに、どの選手をチームの顔として起用するか。

「2022年の装飾は顔ぶれがガラッと変わると思います。今年活躍した選手が他にもたくさんいますので、そういった選手に入っていただいて、目立つところに登場して欲しいなと思っています。

 ただ、選ぶのは大変です(苦笑)。1人でも多くの選手を出せるようにしたいんですが、見せ方として、あまり多すぎると1人1人が小さくなってしまうので」

 来年はどんな選手たちが駅で出迎えてくれるのか。ラオウはどんな立ち位置を勝ち取っているのか。3月29日のホーム開幕戦が今から楽しみだ。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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