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栗林良吏「準備上手は仕事上手」激戦の新人王獲得を後押ししたカープ守護神の類まれなる“準備力”とは
posted2021/12/20 17:03
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PHOTO
新人特別賞にセ・リーグから5選手が選出されたほど、新戦力の活躍が目立った21年、セ・リーグ新人王に選ばれたのは、広島の栗林良吏だった。ハイレベルな争いを制した新人王受賞に、「いいライバルに恵まれて、切磋琢磨できて、この成績が残せた。これからも負けないように、1年でも長くプロ野球選手でいたい」とライバルたちに感謝するところは、常に謙虚な守護神らしかった。
53試合に投げて、37セーブはリーグ2位で、新人最多セーブのタイ記録となった。防御率は驚異の0.86でセーブシチュエーションでの失敗が一度もなかった。「記録になることではないですけど、自分の役職としてはそこをしないといけないと思っている」と、タイトルや記録に表れない成績に胸を張った。
シーズン中には「“準備上手は仕事上手”という言葉があるように、準備は野球に限らず大事なこと。社会人時代から変わりません」と話していた。プロでも長期的な目標だけでなく、10試合区切りの中期目標を立てながら、一歩一歩、絶対的な守護神へと上っていった。
準備力は、プロ入り直後から発揮されていた。入寮翌日の1月9日開始の新人合同自主トレには、スカウト陣や報道陣が多く集まる。アマチュア時代にはなかった光景であり、初体験に誰もが知らぬ間に力が入るもの。自然とペースが上がっても不思議ではない。球団側からペースを上げなくていいと言われても、ハイペースで調整し、何度もブルペン投球をする同期の姿に焦りを覚えがちだ。
ただ、20年11月の都市対抗野球まで投げていたこともあり、栗林は自分のペースを守った。キャンプに入ってからも調整のペースは遅いと思われたが、キャンプ序盤のブルペンで一気にギアを上げ、周囲を納得させた。好スタートを切り、シーズン中も目の前の試合に向けた準備を徹底。登板へ向けた不変のアプローチが、高い技術を最大限に発揮させ、一定の精神状態にさせたのだろう。
ハマの守護神・山崎康晃との邂逅
投手陣がつないだバトンを受け取り、チームの勝敗を背負う、守護神は酷なポジションだ。先発にも中継ぎにも適性のあった栗林は「最初は抑えをやりたいとはあまり思ってなかった」という。ただ、抑えとして登板を重ねていくことで変化。東京五輪の侍ジャパンに選ばれたこともひとつの転機だった。