猛牛のささやきBACK NUMBER
「あれ? 駅のポスターにラオウがいない」オリックス杉本裕太郎の活躍は“嬉しい誤算” 30歳の大ブレイクをみんなが喜ぶワケ
posted2021/12/21 11:05
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Naoya Sanuki
シーズン中、京セラドーム大阪でのオリックス戦の取材を終え、最寄り駅の一つ、ドーム前千代崎駅のホームで電車を待っているといつも、バットを掲げる吉田正尚と目が合った。
大阪市営地下鉄長堀鶴見緑地線・ドーム前千代崎駅のホーム柵や、駅から球場への導線には、オリックスの選手たちの写真装飾が施されている。中央は吉田正尚で、その脇を山本由伸、山岡泰輔らが固める。実績あるT―岡田や安達了一、今季阪神から加入した能見篤史など、12人の選手が並んでいた。
夏場のある時ふと違和感を覚えた。
「ラオウがいない」
今年は4番に座り、3番・吉田正とともに打線の柱となっていた“ラオウ”こと杉本裕太郎が、その12人の中にはいなかったのだ。
そうした大規模な装飾は開幕前に制作されるため、当然といえば当然だった。
ラオウの活躍は「嬉しい誤算」
杉本は入団後の4年間、一軍出場がわずか35試合だった。5年目だった昨年は、二軍監督だった中嶋聡監督が8月に一軍監督代行に就任したのと同時に、杉本も一軍に昇格し41試合に出場したが、打率.268 、本塁打2本と、チームの顔になるほどのインパクトは残せていなかった。
その選手が、今年は4番に座って本塁打を量産し、オリックスを優勝へと牽引した。杉本の人生がこの1年でどれほど激変したかを、その写真装飾が物語っていた。
制作を担当した事業企画部の後藤俊一部長は、恐縮しながらこう話す。
「シーズン前にあのイメージを作る段階では、(杉本は)候補として出てこなかったんです。非常に申し訳ないんですけれども、嬉しい誤算と言えば、嬉しい誤算ですね」
他にも宮城大弥や宗佑磨、紅林弘太郎といった選手たちも、その写真装飾の中にはいないのだが、若手選手が周囲の予想を超える飛躍を果たすことはよくあること。過去5年間ほとんど二軍生活だったプロ6年目の30歳が、それをやってのけたからこそ、誰にも増して爽快で、夢がある。