猛牛のささやきBACK NUMBER
「あれ? 駅のポスターにラオウがいない」オリックス杉本裕太郎の活躍は“嬉しい誤算” 30歳の大ブレイクをみんなが喜ぶワケ
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/12/21 11:05
ホームラン王に輝くなどリーグ優勝に貢献したオリックス杉本裕太郎。プロ6年目、30歳の大ブレイクだった
特に終盤戦は、吉田正が怪我で離脱しチームが沈みかける中、杉本が頼もしい勝負強さを発揮した。
左太腿裏の怪我から復帰したばかりの吉田正が、10月2日に死球を受け、右尺骨を骨折し再び離脱した際には、「とても連勝しているチームの雰囲気じゃなくなった」(杉本)。
中嶋監督も「正直、心が折れかけた」と振り返った。
だがその翌日の第1打席で、杉本はソフトバンク千賀滉大のストレートをスタンドに叩き込む。指揮官は「非常に勇気をもらった1点だった」と愛弟子に感謝した。
意気消沈していた水本勝己ヘッドコーチに、「ヘッドから元気を取ったら、何もなくなりますよ」と言って笑わせたり、「明るくいこうや!」と声をかけてベンチの空気を変えたのも杉本だった。
本塁打王争いのトップに立っても、「それはあんまり意識せず。周りはスーパーバッターなんで、そういう人たちと競えることを楽しんでやります」と、最後まで謙虚さを貫いた。
年俸は5倍、昨年までは「電話を気にしていた」
チームは25年ぶりのリーグ優勝を果たし、杉本は本塁打王に輝いた。シーズン後にはベストナインにも選出された。
12月16日に行われた契約更改では、前年の5倍の金額を提示され、「ラオウがいなかったら、優勝できていなかった」と、最上の言葉をもらった。その場で杉本はこう伝えたという。
「僕は今年30歳なんですけど、ドラフト10位で社会人から入って、5年間なかなか一軍で結果を出せずにいた選手を、それでも契約し続けてくれた球団にはすごく感謝しています」
昨年まで、秋は杉本にとって恐怖の季節だった。
「戦力外通告の時期になると、今まではずっと(球団からの)電話を気にしてました。何年か前に、戦力外のタイミングで非通知の電話がかかってきた時は、すごいびっくりしました(苦笑)」