この天気じゃ、ピッチャーもバッターも気の毒だなぁ……。

　実はこの日、悪天候で延期になるんだと思っていた。

　今回のトライアウトの実施要領の中に「予備日」があって、翌日の日付が記してあった。

　こういう時に使うんだな……と、前日あたりは勝手に決めつけていたところがあったから、当日朝まで「延期」の連絡が来なかった時には、これでやるのか……という違和感があった。

「ああ、もともと今回のトライアウトの会場は、隣接するファーム球場の予定だったんで、予備日を設けてたんですよ（ファーム球場は屋根がない）。あとからメットライフに会場が変わったんです」

　スカウトの方に教えられて、なんだ、そうだったのか……と、再び選手たちがかわいそうになった。

プロ野球関係者「一軍失格のらく印を押された選手たちでしょう」

　これなら、2割増しぐらいで見てあげないと……。

　トライアウトは、シートバッティング形式で行なわれた。

　多くが注目したという巨人・山下航汰外野手のインパクトの強烈さなど、とてもこんなもんじゃない。それは、今季のイースタンの実戦で確認済みだ。

　神戸文也投手（オリックス）の146キロをセンターに打ち上げた高いフライは、滞空時間7秒を超え、飛距離に換算すれば優に100mを越える。

　吉田一将投手（オリックス）の142キロをセンターの左後方に弾き返したライナーは、シーズン中の気温なら、そのまま伸びて左中間フェンスに達していたはずだ。

「いやあ、自分たちの目はそこまで優しくはないでしょうね。そもそもが、一軍失格のらく印を押された選手たちでしょう……加算して見る必要はないと思いますよ」

　トイレ帰りの立ち話だったが、トライアウトを受ける選手の立ち位置が、実感でわかるようなプロ側の言葉だった。

いったい、誰に遠慮しているのか

　それにしても、この静けさはなんだ。

　インパクトの音と捕球音と審判のコールが聞こえるだけで、あとはなんの音も声も聞こえない。粛々と、淡々と進むシートバッティングが、見守る者たちを余計に寒々とさせる。

　大声による応援は禁じます……いまの野球の現場にある“臨時ルール”が、今日のメットライフドームにも適用されて、それで選手たちもグラウンドでは静粛に、と釘をさされているのかと思ったが、関係者に訊いてもそんなことは聞いてない、と口を揃える。

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