マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
“極寒だった”プロ野球トライアウト、現地記者の本音「(元巨人・山下航汰は)こんなもんじゃない」「なぜ声を出してプレーしないの?」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/13 17:02
12月8日のプロ野球トライアウト、注目が集まった山下航汰(巨人)のシート打撃
どうして、みんな黙ってプレーをやっているのか。いったい、誰に遠慮しているのか。
第一、声も出さずにいたら、野球がやりにくいだろう。
野球ってものは、声で動きのきっかけを作り、声と言葉でまわりを鼓舞し、そして自分を鼓舞しながらやるものだ。
シートバッティングが始まって1時間ほど経った頃に、ようやく一塁を守っていた今井順之助(日本ハム)から「さあ、いこう!」と声が飛んだが、センターから山下航汰が「へい!」と返しただけで、その後が続かない。
オーディションなんだから、もっと目立とうとすればいいのに……じつは去年のトライアウトでもそう思った。
そりゃあ、めでたいことがあって、ここに集まってるわけじゃないから照れもあるんだろうが、一縷の望みに賭けようとする、そういう“凄み”を、朝早くから冷え込むネット裏に陣取った者たちは、探しに来ているのではないか。
「闘ってるなぁ」元楽天の中村和希
闘ってるなぁ……と思えたのは、今季はBCリーグ(福井)でプレーした中村和希(元楽天)だ。
この小柄な左バッターが打席に入っている時だけ、見ていて寒さを感じなかった。
ストライクゾーンのボールは、まっすぐだろうが、変化球だろうが、すべてアタックにいって、ファールボールもすべて目で追っていく。ファールを見届ける打者は手ごわいと思ったほうがいい。観察して、反省して、修正ができる。
中村は6打席で、ヒットは3本。ドンピシャのタイミングのヒット性の打球は4本だった。
高野圭佑投手(元阪神)の141キロをライナーでライト頭上に持っていった当たりと、村田透投手(日本ハム)の足元を抜いていった痛烈なピッチャー返しには、間違いなく「熱」があった。
ウェイティングサークルでの過ごし方がいい。
漫然と素振りを繰り返す選手が多い中で、中村は繰り返し「割れ」を作っている。踏み込んでいく右足と、肩口に残るグリップ。このバランスを繰り返し確かめてから、打席に向かう。「準備」ができている。
これぐらい打てる左打ちの外野手なら、プロには何人もいるのだろうが、こういう「心がけ」を大切にする選手には、なぜか心を惹かれる。
みんな社会人野球のエースだったんだ
10月初めに、最初の戦力外通告があったから、長い人ではおよそ2カ月ぶりの「野球」である。その頃には「フェニックスリーグ」も行われていたが、参加した選手もほとんどいない。
今日の寒さに加えて、選手たちのそうしたブランクも、一種の「ハンデ」として、採点に考慮されなきゃウソだと思うが、プロ野球というのは、切り捨てていく世界のようだ。そんな悠長なことは言っていられないのかもしれない。
メットライフドームのトライアウトが終わって、東京ドームの都市対抗野球に移動した。