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「そんなのお前のバッティングじゃない」聖光学院からの盟友の前で“実直なキャッチャー”が崩れ落ちた《初の日本一、中央学院大の友情秘話》
posted2021/11/29 17:01
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
「初」への執念が激突する。
日本一か大学四冠か――。
中央学院大と慶應義塾大による頂上決戦。明治神宮大会はクライマックスを迎えていた。
スコア9-8…土壇場で迎えた慶應の強打者たち
9回表、無死一、二塁。リードはわずか1点。春と秋の東京六大学リーグを制し、全日本大学選手権でも頂点に立った大学球界の王者の猛攻を受けようとしていた。それでも、中央学院大の山崎凪をリードするキャッチャーの佐藤晃一は、クローザーの「腹をくくる」という意志と共鳴するようにミットを構える。
「長打だけは嫌でしたけど、裏の攻撃もあったので『同点まではOK』くらいの割り切りはありました。冷静にリードできました」
オリックスからドラフト4位指名を受けた1番の渡部遼人を、ストレート中心でセンターフライに打ち取る。
本塁打を含む3安打4打点の2番・萩尾匡也には、打ち気をあざ笑うかのように初球スライダーでタイミングをずらしピッチャーゴロ。準決勝でサヨナラ本塁打を放っている3番の下山悠介にも、最後はスライダーを選択してライトフライと強打者たちを仕留め、中央学院大は歓喜の時を迎えた。
攻守にMVP級の活躍で初日本一に貢献
スコアは9-8。5人のピッチャーを我慢強く導いた佐藤は、3番バッターとしても2安打3打点、1本塁打と気を吐いた。それどころか、大会を通じても12打数6安打、5打点、2本塁打と爆発。打撃三部門でチームトップとMVP級の働きで、中央学院大初の大学日本一の原動力となった。
試合後に主将の武田登生とともにヒーローインタビューを受けた佐藤の表情には、こみ上げる感情を必死に抑えるような硬さがあった。
「苦しいことだったり、辛いことがたくさんありましたけど、大学野球で日本一を獲るために中央学院大に入りました。優勝で終わることができて本当に嬉しいです」
苦しいことや辛いこと。
佐藤にとってそれは、大学最後のシーズンとなる今年に集約されていた。まさに、この瞬間のために雌伏の時を過ごしたのである。