野球クロスロードBACK NUMBER
「そんなのお前のバッティングじゃない」聖光学院からの盟友の前で“実直なキャッチャー”が崩れ落ちた《初の日本一、中央学院大の友情秘話》
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2021/11/29 17:01
明治神宮大会で初日本一に輝いた中央学院大学。涙の裏には聖光学院出身の2人の“友情秘話”があったーー
ピッチャーの特性を生かしたリードに軌道修正し、打撃でも本来の持ち味を取り戻した、大学ラストイヤー。春のリーグ戦で初のベストナインに選ばれ、秋には同タイトルとMVPに輝いた。佐藤は開眼を果たした。
「仁平勇汰には感謝しています」
バットが弧を描く。風を切り裂くようなスイングから放たれた打球がレフトへ高々と舞い上がれば、スタンドへの着弾を確信したようにバットを空へ放り上げる。
明治神宮大会では、そんな佐藤がいた。
初戦の佛教大で2安打。國學院大との準決勝では特大アーチで観衆の度肝を抜いた。そして、慶應義塾大との決勝戦でも一発を見舞い、強打で打線を牽引した。
佐藤が友情を噛みしめるように心を込める。
「バッティングのことを教えてくれた、チームメートの仁平勇汰には感謝しています」
実直なキャッチャーが、マウンドでピッチャーの山崎と抱き合い、すぐさま駆け寄ってきたチームメートにもみくちゃにされる。全員が神宮の夜空に向かって叫び、笑った。
「よかった、よかった」。仁平の言葉に崩れ落ちた
慶應義塾大との3時間35分にも及ぶ激闘が幕を閉じた。佐藤がベンチに引き上げようとすると、仁平が駆け寄ってきた。
祝福の抱擁。DHがない明治神宮大会では一度も出番はなかったが、準備の素振りを怠らなかった仁平の手にはマメができていた。
「よかった、よかった。よく打ってくれた!」
肩を叩かれながら労われた瞬間、全身から力が抜け、佐藤が崩れ落ちる。
涙が溢れ、嗚咽が止まらなくなった。
初の戴冠を手にしたチームを、神宮球場のカクテル光線が温かく包む。
「行くぞ!」
佐藤は仁平に抱えられるように立ち上がり、チームメートが待つ場所へと歩み出す。顔を挙げると、全員が泣いていた。自分が身を寄せている友の目も、真っ赤に腫れていた。
これが数ある中央学院大の、ひとつの優勝物語。