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「そんなのお前のバッティングじゃない」聖光学院からの盟友の前で“実直なキャッチャー”が崩れ落ちた《初の日本一、中央学院大の友情秘話》
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2021/11/29 17:01
明治神宮大会で初日本一に輝いた中央学院大学。涙の裏には聖光学院出身の2人の“友情秘話”があったーー
同じ聖光学院出身の“知己”が、佐藤に言った
佐藤には長打力がある。しかし、より確実性を求めるが故に窮屈なスイングをしては、凡打を重ねるシーンも少なくなかった。
「そんなの、晃一の持ち味じゃない」
4年生の春。痛いところを突いたのが、自分と同じ副主将の仁平勇汰だった。
ふたりは聖光学院の出身で、仁平は3年夏に主将を務めた。感情を最優先させず、誰とでも打ちとける優しい性格。野球にもひたむきな姿勢を貫く実直な佐藤を知る仁平だからこそ、「お前はそうじゃないだろ」とアドバイスせずにはいられなかった。
「試合では三遊間を抜くヒットが多いのに、なんで練習だときれいに逆方向へ打とうとするんだよ。そんなのお前のバッティングじゃない。思い切りバット振れよ」
要するに、リードも打撃もスマートさ、つまり無難を求めていたことになる。だが実際の佐藤は、思い切りの良さにこそ魅力がある。監督同様、仁平もそこを見抜いていたのだ。
高校時代から自分を見てきた知己の意見に、佐藤は素直に耳を傾けた。
「自分の持ち味は何か? と考えた時、センターからレフト方向に強い打球を打てることで。それをバッティング練習から意識しながら取り組んできたらだんだん結果が出て、自信になりました」
大学で野球を終える仁平が、佐藤に託した「夢」
仁平が佐藤にアドバイスしたのには、実は個人的な理由もあった。
4年生となり、DH(指名打者)としてはスタメンで試合に出場できていたものの、絶対的なレギュラーかと言えばそうではなく、大学までで野球に一区切りつけると決めていた。でも佐藤は、上のステージでも野球を続けるという。だから、くすぶったまま大学野球を終えてほしくなかったし、大仰に言えば自分の夢を託していた部分もあった。
仁平が照れくさそうに言っていた。
「僕も最後の1年なんで、野球をやり切りたかったのもあるんですけどね。やるなら晃一と一緒に試合に出たかったんで。だから、ふたりで毎日、室内で打ってましたね。休みの日もずっとバット振り続けてました」