ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
再認識した「斎藤佑樹」という選手の価値 ファイターズ広報が明かした《引退発表からの心揺さぶられる3日間》
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/09 06:02
現役最後のマウンドに上がった斎藤佑樹。近くで支えてきた広報がその舞台裏を明かす
その日を含めて3日間、鎌ケ谷で広報対応することになった。
2日後の10月3日のイースタン・リーグの横浜DeNAベイスターズ戦。今シーズンのファーム最終戦で、登板することが内定していた。引退表明直後にブルペンで投球練習をして調整。直近で痛めた右肩は限界に近かったが、斎藤投手の強い希望だったと聞く。鎌ケ谷で応援してもらったファン、苦しみを分かち合ったマウンドに最後、立ちたいとの思いだったのである。
引退セレモニーは10月17日に札幌ドームで予定されているが、強い意思で節目を切望したのである。そして、叶った。周囲も思いを汲み、叶えた。
登板予定は6回表、先頭打者からの打者1人のみ。斎藤に心を寄せて、見守ってきた首脳陣の配慮がにじむ舞台だった。5回終了時のグラウンド整備を終えた直後を、出番に設定した。まっさらなキレイなマウンドへと送り出したいという、思いだった。
涙を流す清宮、無数のシャッター音
斎藤から、そのマウンドを引き継ぐ予定を告げられていたのが谷川昌希投手。開幕直後、阪神タイガースからトレードで加入した右腕である。
本来であれば、そのイニングの先頭打者から投入されるが、斎藤投手が打者1人と対戦した後の持ち場を託された。自身にとっても、ファーム公式戦では今季最終登板。引き立てるような役回りも、快諾したという。試合前の昼食中に、そんな雑談をすると「逆に一番目立つところで投げさせてもらいます」と笑い、むしろ意気に感じていたのである。
5回終了後、スタンドへと向かった。斎藤投手のファームでの最終登板を肉眼で見届けるため、最上段の通路へと向かった。立ち見で、三塁側ブルペンから登場していくシーンから目に焼きつけた。一塁手の清宮選手が、投球前にマウンドへと駆け寄る。ファーストミット越しに、声を掛けている。あとでその時、清宮選手の涙腺が決壊していたことを知った。
その試合、撮影のために入場を許可していた報道のスチール・カメラマンは3人。それでも1球ごとに、重なり合う無数のシャッター音が、スタンドに響いていた。観客の方々も、雄姿を収めようとレンズを向けていたのである。大きなトピックの記者会見でも耳にしたことがないような音量だった。
そして、地鳴りのように響いた大きな拍手。立ち上がっている人もいた。ベイスターズのファンの方々も、同じように呼応してくれた。スタンドのすべての人の温もりが、斎藤選手に注がれていた。感動的だった。