ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
再認識した「斎藤佑樹」という選手の価値 ファイターズ広報が明かした《引退発表からの心揺さぶられる3日間》
posted2021/10/09 06:02
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph by
Sankei Shimbun
胸を打たれる3日間を過ごした。
携帯電話にセットしていたアラームが、大きな節目が迫っていることを教えてくれた。
10月1日。時計は午前10時45分を刻み、カウントダウンが始まった。
北海道日本ハムファイターズのファームが拠点としているファイターズ鎌ケ谷スタジアムに隣接する室内練習場。その日は台風の影響もあり、屋外は暴風雨だった。予定されていたイースタン・リーグの試合は、中止が決定していた。
練習している選手たちの妨げにならないように、自分だけが認知できる音量に調整したアラームを合図に、室内練習場からの坂を下った。その先にある球場内の一室へと、1人で向かった。傘を差しても防御不能な横殴りの雨に、スーツは濡れていた。それを気にする心の余裕もなく、電源を入れてノートパソコンを立ち上げた。その時への準備を整えたのである。
広報部の報道リリース配信用のシステムへとログインした。リリース文の文言、添付ファイルなど細部を最終確認する。そして最後にもう1度、リリースの「件名」を確認した。
「斎藤佑樹投手引退のお知らせ」
午前10時59分に、すべてのチェックを終えた。「送信内容設定」を選択し、最終のセットアップを完了した。その1分後、午前11時に「メール送信開始」をクリックした。眼前に広がるグラウンドは荒天に飲み込まれていた。そんなシチュエーションも、拍車をかけたのだろうか。気持ちは、ひどく重かったのである。
何かが終わった気がした。