猛牛のささやきBACK NUMBER
《ホームラン2本→27本》吉田正尚が不在でもオリックスには“ラオウ”がいる! 遅咲きスラッガーを覚醒させた「心の余裕」とは?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKYODO
posted2021/09/18 11:04
優勝戦線に踏みとどまる大きな一打を放った4番・杉本裕太郎。吉田不在の今、打線の柱として気を吐く
身長190センチ、体重104キロの体躯で、愛称は“ラオウ”。漫画『北斗の拳』の登場人物ラオウを崇拝するためだが、そうした愛称やごつい風貌とは対照的に、実際の杉本は“気は優しくて力持ち”を絵に描いたような、サービス精神にあふれる気遣いの人である。
試合で本塁打や適時打を打った際に球団広報から発信される杉本のコメントには、かなりの確率で他の選手の名前が出てくる。
6月13日に本塁打を打った際には、「試合前、山岡(泰輔)にバッティングを教えてもらったら打てました!」
7月2日の本塁打の際には、「今日、西野(真弘)さんにソックスを借りたら打てたので、西野さんのおかげです!」
4月には、好調のきっかけがT-岡田の香水をロッカールームで勝手に拝借しているおかげだと明かして話題をさらった。そうやって他の選手の名前を積極的に出す理由を尋ねると、こう答えた。
「実際、ちょっと打てなくなった時に、誰かに助けを求めて打てるようになっていることが本当にあるんで、『ちょっとこれ言おうかな』と思うんです。それに、『先制点取れてよかったです』みたいな普通のコメントしても、別に聞く人はおもんないじゃないですか。だから、なんか人と違うこと言おうとか、誰かの名前を出して見てもらおう、みたいな気持ちもあります。自分の話ばっかりするのはあんまり好きじゃないんで」
6月は絶好調、7月は一転……
6月は打率.375、5本塁打、19打点と絶好調で、初の月間MVPに輝き、「我が生涯の1カ月で一番調子がよかったです」という名ゼリフを残したが、7月は打率1割台で本塁打も1本と調子を落とした。
それでも、五輪による中断期間が幸いした。その期間に、好調時との違いに気づけた。
「構えが、知らん間にちっちゃくなっていました。やっぱり打てなくなったり、三振が続くと、どうしても『当てたい』という思いが出てしまって、構えやトップが小さくなる。そうなると距離が取れなくて、ボールを見極める時間も少なくなっていた。それに気づいて、大きく構えて、トップを深くとったら、マシになりました」
気づかせてくれたのは福田周平だった。