猛牛のささやきBACK NUMBER
《ホームラン2本→27本》吉田正尚が不在でもオリックスには“ラオウ”がいる! 遅咲きスラッガーを覚醒させた「心の余裕」とは?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKYODO
posted2021/09/18 11:04
優勝戦線に踏みとどまる大きな一打を放った4番・杉本裕太郎。吉田不在の今、打線の柱として気を吐く
8月1日に行われたエキシビションマッチの巨人戦で、杉本の1打席目と2打席目を、たまたま二塁ランナーとしてセカンドベースから見ていた福田が、違いに気づいたという。
「福田に、『なんで打てへんか、お前わかった?』って言われて。『1打席目は大きく構えてて、すごい打ちそうに見えたのに、2打席目はめっちゃ膝を曲げて構えが小さくなってた』と教えてくれました。膝を曲げすぎると、低めのボール球にも届いてしまうから、振っちゃうんじゃないかと」
年下で小柄な福田に「お前わかった?」と指摘されるラオウの姿を想像するとつい笑ってしまうが、「1個下っすけど、まあ仲いいんで」と受け入れるのが杉本らしい。
吉田不在…本塁打王よりもチームの勝利
今年8月に話を聞いた時、杉本は「4番に対するこだわりはない」と話していた。「4番」というより、「吉田正尚のうしろ」という役割を重視していた。
「正尚が勝負を避けられることがないように、僕が(1、2打席目の)早い打席でいい結果を残すことを考えています。そうしたら、正尚と勝負してくれるんで。そうなれば正尚はだいたい打つんで、どんどん点が入っていく」
青山学院大では吉田の2年先輩で、オリックスに同期入団した杉本は、吉田の偉大さを誰よりも感じている。
「誰がどう見ても、あいつが一番いいバッター。だから、誰があいつの後を打っても、(吉田が)勝負を避けられるというのはあると思うけど、なるべくそうならないようにしたいんです」
しかしその吉田は、左太腿裏の筋損傷で9月5日に登録抹消となった。以来、オリックス打線は得点力を欠き、首位を明け渡し苦しい戦いを強いられている。
ただその中で、杉本が頼もしさを増している。今は、「心の余裕があるから」ではなく、「自分がやらなくては」という使命感に突き動かされているのではないか。
9月はすでに6本塁打を記録。チームを優勝争いに踏みとどまらせると同時に、柳田悠岐(ソフトバンク)やレオネス・マーティン(ロッテ)を抜き去り、ホームランダービーのトップに躍り出た。
遅咲きの本塁打王が誕生する可能性は十分にある。実現すれば、オリックスでは2010年のT-岡田以来となる。
だがそれは今、杉本の眼中にはない。目指すはチームの勝利、優勝だけだ。
9月18日からは、今季高い勝率を誇るホームでの戦いが8試合続く。25年ぶりの優勝へと望みをつなぐための正念場であり、チャンスでもある。間違いなくその中心に、杉本がいる。