甲子園の風BACK NUMBER
宝物は同学年の“田中将大と斎藤佑樹のサインボール”…「打倒マー君」や「帝京との死闘」の智弁和歌山主将は今、何を?
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byKatsuhito Furumiya
posted2021/08/27 11:03
卒業後も智弁和歌山に携わった古宮克人。打倒・田中将大に燃えた当時のキャプテンは今、何をしているのだろうか
8回を終え8対4。ところが9回表にアンラッキーなヒットもあって逆転される。そして最後はレフトへスリーランを浴びる。センターの守備位置から古宮は「追え追え、あきらめるな」と叫んでいた。
「入った瞬間、負けたな」と思ったそうだ。
「逆転して決着をつけるのは自分の打席だな」
ただ、帝京はエースの大田阿斗里(元DeNA)も高島祥平(元中日)も退いていてピッチャーがいない。ベンチに帰ってきて、9回裏、なんとなく行けるんちゃうか。そんな予感があった。
8回の攻撃は古宮で終わっていた。「逆転して決着をつけるのは自分の打席だな」と冷静に考えていたと笑う。
連続四球の2人を置いて橋本。
「ネクストからバッターボックスに歩いていくのを見たら、放り込むんちゃうかと。ほんまに放り込みよったんです」
これで1点差。続いて2四死球から同点タイムリーが出て、9番打者が四球を選んで満塁になった。
「僕のところでほんまにチャンスがきた。8点取られたから満塁ホームランで8点取りたかった。でも初球、体が開いてサードへの当たり損ないのファール。これで冷静になった」
フルカウントになって、体に当たるようなボールを避けて、押し出しのサヨナラ四球になった。
「先発、なんでマー君じゃないねんと」
準決は倒すべき相手、駒大苫小牧に挑戦する。
「とうとう機会が来たなと。でも、先発も二番手も田中じゃなくて、こっちは怒ってるんです(笑)。なんでマー君じゃないねんと」
先制されるが2点差まで追い上げて、田中をマウンドに引っ張り出した。
しかし今、振り返ると古宮には後悔がある。
「どんな相手にでも、こっちが上と思ってやっていましたが、田中にはそういう立場に立てなかった。意識しないところで、実力は向こうが上と認めてしまう。敬意を払うためにペコっと頭を下げたり謙虚だった。対戦することに満足したような。結果、攻めきれなかった」
橋本がタイムリーを打ったが、4対7で最大の決戦は終わった。
古宮対田中。四球、三振とサードのファールフライ。ゲーム終盤、勝負どころの1死二、三塁。甲子園最後の打席と思って打席に入った。内角に来たスライダーだったが、ヘッドが下がって打ち損じてファールフライになった。
驚いたのはスライダーだった。