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「世界一の速さ」と「キンちゃんみたいな獣性」主将リーチ マイケルが明かす2023年ラグビーW杯で勝つための準備
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byJRFU
posted2021/08/10 11:00
欧州遠征を控えた合宿でトレーニングに励むリーチマイケル。ライオンズ、アイルランドとの対戦を経て、ジャパンの現在地を語った
「ライオンズ戦はW杯以上に緊張してました。相手は世界のトップ選手ばかり。人生で一度のビッグマッチ。試合に向けた1週間はずっと緊張していました。でも試合が始まったら大きな差は感じなかった」
試合は拮抗した。コンタクト、セットプレー、地域を獲るキック……日本はほぼ互角に試合を進めたが、詰めの精度を欠きトライを取り切れない。逆にライオンズは、日本のミスから抜け目なくトライを奪った。
「向こうのトライは全部こっちのミスから。自爆でした。でもかえって自信がついた面もある。ベースでは十分戦えたし、主要スタッツも日本が上回っていた。その上で、小さなミスが必ず失点に繋がるという厳しさを痛感できたのは良かった。トップリーグやティア2相手の試合ではミスがあってもカバーできる、トライまでされないうちに何とかできるけど、世界のトップチームが相手だとそうはいかない。ちょっとのミスで一気にやられる。それがテストマッチ。その厳しさを学ぶことができた。ただ、自分のデキは悪かった」
ライオンズ戦のあと、ジェイミー・ジョセフHCには辛辣な言葉を浴びたという。プレーにパンチ力がない。いるのかいないのか分からない……。リーチは後半10分に交代を命じられ、代わって入った姫野和樹がトライをあげた。ジェイミージャパンになって最も早い時間の交代。そしてリーチが交代したあとの30分間に限れば日本が10-0と勝っていた。
「ジェイミーには『チームのことを考えすぎている。ミスしないことだけ考えて慎重になっている。そんな選手は要らない。いいキャプテンよりもいい選手がほしいんだ』と言われました」
ライオンズ戦の前はひたすら真面目に取り組んだ。食事、片付け、試合当日の行動……自分に課したルーティンをいつも以上に守り、完璧な状態で試合に臨もうとした。ライオンズという「人生で一度」「W杯よりも緊張した」というビッグマッチを前にした緊張がそうさせたのかもしれない。
「アイルランド戦の前は、それをやめました。やっぱりオレはフィジアンだから、真面目にやろうとしてもダメ(笑)。ルーティンもやめて、試合の前日はアイス食ってた」
生真面目さと奔放さの同居
リーチにはスコットランド系ニュージーランド人の父から受け継いだ生真面目さと、フィジー生まれの母から受け継いだ奔放さが同居している。愚直で生真面目なハードワーカーでありながら、決め事に縛られないXファクターにも、獰猛な野獣にもなりうる——そんな相反するキャラクターを兼ね備えていることがリーチの武器だ。だがライオンズ戦の前は、それが生真面目さに強く傾いてしまった。
「フミさん(田中史朗)、トモさん(トンプソン ルーク)がいなくなったこともある。僕の世代が一番上になったし、年上らしく振る舞わなきゃと考えてしまった」
ホテルの自室には「心配するな」と大書した紙を貼り、その文字を見て時間を過ごした。今回の遠征では、ホテルの自室で一人で過ごす時間が多かった。いきおい矢印は自分に向く。完璧を求めよう。ミスをなくそう。その思いは無意識でリスクを遠ざけようとする。失敗への不安が心身のバランスを崩す……。
エディー時代には同じようなことはなかったのか? それを問うとリーチは即答した。