無論、簡単なことではない。だが、その難事業に挑むための選手個々のマインドも変化している。フランスに拠点を移した松島幸太朗、スーパーラグビーに挑戦した姫野和樹は、長丁場のシーズン、負荷の高い試合と長時間移動で蓄積した疲労にもかかわらず自信に満ちあふれ、練習でも圧倒的な存在感をみせた。

「マツ（松島）の合流初日の練習はすごかった。ラインブレイクしまくってた。姫野はでかい選手の中でやってきて強さが増した。バケモノです」

　そしてリーチは付け加えた。

「だけどバケモノはもう1人いた。テビタ・タタフです。強くて賢い。ライオンズ戦でもアイルランド戦でも、試合後に向こうの選手が『アイツは何ものだ？』と聞いてきたくらいです（笑）」

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　姫野もタタフもリーチと同じFW第3列だ。今回のツアーでは出番のなかったオーストラリア出身、23歳のベン・ガンター（パナソニック）も日本代表での出場資格をクリアし、デビューを待っている。W杯2大会で主将を務め、アイルランド戦で通算70キャップに到達したリーチもレギュラーが安泰なわけではない。

「ポジション争いがすごく激しくなっている。70キャップあるとか関係ない。まずプレーヤーとしてフィールドに立つ資格を勝ち取らないと」

　リーチの言葉に熱がこもった。

「僕はスタートから出たいし、簡単に諦めはしない。一番はチームが勝つこと。強いチームになることで、僕はそこにいたい。歳は関係ない。彼らには試合に出て活躍してほしいけど、そのために僕が優しくなって譲るようなことはない。ポジション争いのレベルがあがるのはうれしいことです。楽しみしかない」

9月はベストコンディションで

　2019年のW杯は、半年前に痛めた股関節の負傷を抱えたままの戦いだった。W杯の翌年、コロナ禍に見舞われたシーズンに、リーチは「頭から足先まで」複数箇所の手術に踏み切り、体を整備し直した。復帰戦となった2021年のトップリーグは、時折スケールの大きなプレーを見せたものの、パフォーマンスは自身のイメージする姿にはほど遠かった。

「今回、ジャパンのシリーズではトップリーグの時よりも全然よかった。でも、次の秋シリーズに向けて、9月の合宿にはベストのコンディションでいかないと」

　そうでなければ、このチームに自分は残れない、居場所はないとリーチは覚悟している。そう追い込むことで、自分の力を引き出せる。勤勉なリーチは奔放なリーチを求め、奔放なリーチもまた、勤勉さの価値を意識する。完璧を求めながら、調和に安住しようとはしない。

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