「全然なかった。エディーのときは、ジャパンがティア1に上がる前。何のプレッシャーもなかった。でも今は勝つことを期待されているし、実際に勝てると思う。勝たなきゃいけない力関係になっている」

　そんな負のスパイラルに陥っていたリーチに、ジェイミーは辛辣な言葉でダメ出しをしたのだった。そしてリーチには、そこから立ち直るための仲間がいた。

　アイルランド戦に向けたリーダーミーティングで、リーチは、自分がプレッシャーに苦しんでいることを周りに伝えた。

「みんなサポートしてくれました」

　田村優は「お前がいい選手だってことはみんな知ってるから、自分のことだけに集中してくれ」と言ってくれた。稲垣啓太や中村亮土は、練習中いつも以上に早く発言し、リーチの負担を減らした。ホテルの自室にこもりがちな毎日にメリハリをつけるため、チーム対抗のゲームも企画された。

「マリオカートの大会では優勝しました。いつも家で娘とやってて鍛えられて、自信あったんです。娘には勝てないけど、ジャパンではダントツでした（笑）」

体を張り続けたアイルランド戦

　リラックスして迎えたアイルランド戦。リーチは強気で臨んだ。3－7で迎えた前半11分には相手陣深くで得たPKでショットを狙わずラインアウトを選択し、モールから、自身テストマッチ通算20号となる逆転トライも決めた。試合はトライの取り合いとなり、最終スコアは31－39。リーチは80分フルタイム出場で体を張った。ライオンズ戦とは違う充実感があった。だが試合には敗れた。

「でも、8点差です。ちょっと前までは考えられなかった。80点くらい取られた頃もあった」

　日本代表がアイルランドの本拠地ダブリンを訪れたのは2000年以来21年ぶり。そのときは9－78で大敗した。その後、アイルランドはライオンズの遠征イヤーにライオンズ抜きの布陣で2度来日。それぞれ2つのテストマッチを戦い、05年は12－44と18－47、17年は22－50と13－35。すべて日本が大敗した。今回は敵地で、しかも1年8カ月ぶりに代表活動を再開したばかりで8点差。歴史と現況を鑑みれば大幅な前進だ。だがリーチは「満足してはいけない」と言った。

「この点差で『よくやった』とは思えない。勝つだけの力はつけてきたし、実際に何度もリードした。ジャパンはここで勝たないといけないんです」

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　体を当てたからこそ感じられることがある。以前は最初のコンタクトで相手とこちらのチーム力の差を思い知った。格上の相手にどう挑むか、力不足をどう補って勝つかがテーマだった。だが今はそれは感じない。勝てない理由はない。

「前は、負けるとしたら力不足、相手が上だったと思うことが多かった。今はそうじゃない。相手が強くても、こっちも強い。勝ち負けを決めるのはゲームマネジメントの部分。そこをしっかり準備して、準備したことをやりきれば勝てる。勝てないとしたら理由は相手が強いからじゃなく、準備したことを自分たちがやりきれなかったから」

　結果を決めるのは環境でも歴史でもない。自分たちだ。

「前のW杯で、日本が負けたのは優勝した南アフリカだけ。それは大きな自信になる。僕らがそう思うだけじゃなく、周りもそう思ってくれる。レフリーが持っていたイメージも変わってきている。だから大事なのは、ここで勝っていくこと」

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