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「夢なのか、現実なのか……」
清原和博は甲子園決勝で何を見たか。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/08/22 12:00
100回大会の決勝を観戦した清原和博氏。1985年夏の決勝で2本塁打を放ち、PL学園を優勝に導いた日と同じ8月21日だった。
僕、あそこまで飛ばしたんですよね。
5回を終えて12-1と大差がついた。それでも清原氏の表情は眩しいままだった。グラウンドに視線を送り、アルプスの歓声を聞き、そして、時折、バックスクリーンをじっと見つめた。
「僕、あそこまで飛ばしたんですよね……」
奇しくも33年前、自らが2本のホームランを放って伝説となった、あの決勝戦と同じ日だった。空にはあの日と同じ雲が浮かんでいた。
あらためて聞いた。
甲子園に何を見たのか。
「あの頃と何も変わっていなかったんです。まるで、あの日みたいな不思議な感覚になりました。お客さんの拍手も、ブラスバンドの音も、静寂と大歓声が対比するような球場の空気も、決勝戦の雰囲気も……。その中で僕は1本目をレフトに打って、2本目をあんなところまで飛ばしたのか、と。あの時、この球場はどれくらいの拍手に包まれたのかなって、想像できたんです」
また、甲子園に力をもらった。
なぜ、甲子園にやってきたのか。
「やっぱり、自分の原点なんです。逮捕されてからも、相変わらず人生の目標がなくて、下を向いて生きてきました。甲子園で自分が打ったホームランまで汚れてしまったような気がして……。
でも、今日、甲子園にきて、俺はこの舞台で、あんなホームランを打ったんだ、ということがはっきりわかりました。失っていたものを取り戻せたというか……、今までは悔やんでばかりの日々を過ごしていましたけど、また、甲子園に力をもらった。これで明日から、少しは顔を上げて、しっかりと地に足をつけて、生きていけます」
午後4時18分。グラウンドに銀傘の影が落ち始めた頃、試合は終わった。
清原氏はいつまでも去ろうとしなかった。立ち上がり、勝者と敗者に拍手を送りながら、球場のあらゆる場所を見つめていた。これからの人生を歩んでいくための景色を目に焼きつけていた。