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「夢なのか、現実なのか……」
清原和博は甲子園決勝で何を見たか。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/08/22 12:00
100回大会の決勝を観戦した清原和博氏。1985年夏の決勝で2本塁打を放ち、PL学園を優勝に導いた日と同じ8月21日だった。
8月21日。夢なのか、現実なのか。
そして、8月21日がきた。
甲子園球場へ向かう車の窓から見える空は曇っていた。台風19号接近の影響か、かすかに雨粒がフロントガラスを濡らしていた。この時はまだ清原氏の表情も空と同じような灰色だった。
「場合によっては、すぐに帰らないといけないかもしれませんし、いろいろ言われるかもしれない。そういう覚悟はあります。でも、一目でいいから、見たいんです」
甲子園は自分を受け入れてくれるのか。球場に足を踏み入れても、その思いを拭いきれなかった。
不安を抱えたまま暗い通路を歩いて、スタンド最上部へ。扉が開き、一気に視界がひらける。
そこで清原氏を待っていたのは、想像を絶する景色だったという。
プレーボールに合わせたかのように雲は晴れていた。黒土と緑芝が光に照らされ、人で埋まったスタンドが白く輝いていた。
思わず身を乗り出し、甲子園を見渡した。
「なんか夢みたいな……。夢なのか、現実なのか、わからないです」
藤原恭大に驚き、金足農に拍手。
午後1時58分、整列した両校に拍手を送る。そこからは本当に夢の世界にいる少年のようだった。
1回裏。大阪桐蔭の攻撃。一塁側アルプスから勇壮なブラスバンドが響いてきた。
「うわ、すごいな……。PLもすごかったですけど、それよりすごいかもしれない」
4番・藤原恭大がバットを振る。
「スイング、速いなあ……」
2回表。初回に3点を先制された金足農業が一、三塁のチャンスを迎えると、祈るような表情になった。
「ここで1点でも取れば、まだわかりませんよ。ゲッツーだけは打つなよ……」
球場全体がリードされている秋田の県立校に拍手を送ると、自らも立ち上がって、そうした。