マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
野球部の坊主頭はいつまで続くのか。
大学では消滅寸前、高校はまだ現役。
posted2018/01/10 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
今、私の手元に1枚の古い写真がある。
43年前の早稲田大学野球部・夏の軽井沢合宿。
当時の『アサヒグラフ』さんだったか、『週刊ベースボール』さんだったかが取材にやって来て撮った写真。実際に、雑誌に掲載されたものだ。
以前、この写真を眺めていたら、後ろからのぞき込んだ人にこう言われた。
「あ、戦時中の写真ですね」
なんの疑いもなくそう言われ、なるほど……と、かえって納得したものだった。
背景のうっそうとした樹木。その前に居並ぶげっそりと疲れ果てた表情の男たち。モノクロ写真でもはっきりわかる汗とドロの染み込んだ衣服。そして、一様に、修行僧のような坊主頭。
「すいません、ジャングルから出てきた敗残兵かと思いました……」
確かにそこには、スポーツに打ち込む若者たちのはつらつとした生気も感じられなければ、希望に燃えた前向きの輝きもない。
ひたすら、苦しいだけの時を耐えに耐え、さらにまだこの先にもいくつもの試練を控えた者の、絶望的な暗さと重苦しさ。
そんなものしか伝わってこない。
しかし間違いなく、40数年前のこの国で、学生野球に打ち込んでいた者たちの姿なのだ。
大学野球の変化を、シャンプーから感じる。
「最近の学生たちは、ずいぶんきれいになりましたよね」
そんな話をされていた大学野球の監督さんのことを思い出した。
「練習の後に、一緒に風呂に入るでしょ。みんなそれぞれ、持ってくるシャンプーが違うんですよね。洗い場の鏡の前に、いろんな種類のシャンプーがズラーッと並んで。なんか、変わりましたよね、学生野球も……」
学生野球の変化を、風呂場に並んだシャンプーから感じる。
そんな“感受性”を持った監督さんが、もっといればいいなと、ふと思ったものだ。