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今年の新人王はセもパも東都2部!
原樹理と吉田正尚、2人の「特殊能力」。
posted2016/03/22 10:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
NIKKAN SPORTS
ヤクルトのドラフト1位ルーキー・原樹理投手がオープン戦を快調に飛ばしている。
3月12日のソフトバンク戦に先発して5回を3安打無失点に抑え、これでオープン戦11イニング投げてまだ1点も取られていない。早くもシーズン開幕3戦目に巨人のルーキー・桜井俊貴との“先発激突”という予想まで報道されている。
一つ前の試合、3日のDeNA戦のピッチングを見た。
先発で4回を投げて4安打1四球。5人の走者を許して、いつ失点してもおかしくないようなピッチング。なのに、終わってみると結構試合を作っている。
ぼんやり見ていると、なんてことのない投手だ。おそらく一般のファンの方たちが「今日は原樹理を見に行くぞー!」と勇んでスタジアムに駆けつけたら、お目当ての彼のピッチングを見た時、「えっ、あれがほんとに樹理なの……?」とキョトンとするに違いない。
圧倒的な支配感も存在感も漂わせない、“涼しい顔”をした投手である。
速球の球速帯も140キロ前後。激しく動くすごそうな変化球も見当たらず、なのにプロの一軍の打者たちがなぜか打ち損じを重ねていく。ミステリアスな投手なのだ。
昨年夏の巨人二軍との交流戦で見せた原の特殊能力。
東洋大・原樹理が交流戦で「巨人二軍」と対戦したのは、去年の8月だったろうか。炎暑の盛りの、風の吹かないジャイアンツ球場での一戦だった。
二軍といっても、スターティングメンバーには和田恋、ベンチには岡本和真の姿もあった。“ベストメンバー”に近い本気勝負だった。
そして、マウンドに上がった原樹理が小さい。
かぼそいユニフォーム姿。ちょっと猫背のせいもあるのか、報道では「最速147キロのプロ注目投手」とか聞いていたが、相手は実質“一軍半”だし、見てるだけでも倒れそうなこの暑さだし、ほんとにこの投手でだいじょうぶなのだろうか……と思っているうちに、試合が3回、4回と過ぎていく。
プロのそれなりの打者というものは、ふところを広くとって構え、明確なトップを作りながら自分の空間まで投球を十分呼び込んでハッシと叩く。
そういう間(ま)があるものだ。
なのに、ジャイアンツの打者たちが、原樹理のボールをみんなあわてて打っている。
あっ! とビックリしたように、あわててバットを出している。