マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
今年の新人王はセもパも東都2部!
原樹理と吉田正尚、2人の「特殊能力」。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/03/22 10:30
吉田正尚のあまりにも豪快なスイング。173cmと小柄ながら大学日本代表の4番に座った実力は本物だ。
和田、鬼屋敷のバットを折ったシュートとカット。
タイミングが合ってこそのフルスイングである。あわてて出したバットの打球に“生命力”などあるわけがない。
カン! といい角度で飛んでいっても外野手の定位置付近で失速し、おおかたの打球は東洋大内野陣の前に力なく転がっていくばかり。打順がふた回り目になっても、首をひねりひねり一塁側ダグアウトに戻っていく選手たちが続いた。
動かしている、間違いなく動かしている、それも、わからないように。
そう思って、見る位置をネット裏の真正面、捕手が構える真後ろに変えてみた。
うわっ! シュートだ!
春からずっとイースタンで4番に固定されていた成長株・和田恋のバットが根元から粉砕された。ど真ん中の速球に見えたボールが、球道途中で一気にコースを変え、ホップするように和田恋のグリップのあたりに食い込んだ。
捕手の鬼屋敷正人がバットを折られたのは、外へ動いたカットボールだ。甘いストレートだと見てスイングを始めた瞬間、ボール2つ分ほど外へ動いた。
ファームの打者の傾向として、体の開きが早いことが多い。変化点がうんと打者に近く、しかも“音もなく”動くカットボールは、開きの早い右打者に引っかけさせて三塁ゴロに打ち取るにはおあつらえ向きのボールなのだ。
間にはさむ100キロちょっとの落差の大きなカーブが勇む打者の心をはぐらかし、打者の頭を余計に混乱させる。
大学生に気持ちよくミートされた巨人投手たち。
ピッチャーだなぁ……こういうのがピッチャーっていうんだよ。
ジャイアンツのマウンドに、次々に上がってくる若手投手たち。誰もが原樹理よりひと回り、ふた回りも大きく、誰もが145キロ前後をマークするのに、大学生たちに気持ちよさそうにジャストミートされている。
投げるより、見て勉強したほうがいいんじゃないの……。
ついつい皮肉めいた独りごとをつぶやいてしまったものだ。