野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
金本知憲監督もノータッチの新人。
阪神の新人・高山俊は“モノが違う”。
posted2016/03/22 11:00
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
NIKKAN SPORTS
オープン戦まっただ中の3月中旬、誰ともなく、虎番がつぶやいた。「やっぱり野手は助かるな。毎日、試合に出てくれるから」。
阪神を追う関西スポーツ紙の番記者は日々、紙面が埋まるネタを必死に探す。投手は登板日くらいしか大きくならないが、スター野手は、たちまち「救世主」になる。黙っていても毎日、プレーの一挙手一投足がデカデカと記事になるからだ。ましてや、鮮度抜群の黄金ルーキーなら、なおさらだろう。この春、虎番を救うホープが現れた。
高山俊である。日大三で夏の甲子園優勝。明大で東京六大学リーグ最多安打記録更新。華々しいプロフィールをひっさげ、昨秋のドラフト1位で阪神に入団した。
完成度の高い打撃は高評価され、実戦でも「プロの壁」を感じさせなかった。開幕一軍などというレベルではない。オープン戦は先発出場した全13試合で安打を放つという離れ業を演じて見せた。文句なしの即戦力は金本知憲監督の信頼を勝ち取り、1番左翼での開幕スタメンが決まった。
報道陣に配られる阪神の2015年版メディアガイドをめくってみる。4ページにわたって1936年以降の開幕オーダーや勝敗、スコアが記されている。つぶさに調べていくと、チームの新人野手で開幕戦先発メンバーに入ったのは、ドラフト導入後でも過去に6人しかいないレアケースなのだ。
「完成形に近い」と金本監督も一目惚れ。
彼を見た誰もが、こう言う。「モノが違う」。首脳陣も評論家も、同じ言葉を並べた。
いったい、何がスゴイのか。2月の沖縄・宜野座キャンプで高山の打撃を初めて見た金本知憲監督も「フォーム的に完成形に近い。あとはゲームでどう慣れていくか。予想以上。彼の好きなように。壁にぶつかるまで、何も言う気はない。好きなように試せばいい。彼のスタイルで、今のままでね」とうなった。
一目惚れだった。頭の位置はまったくブレず、安定した軸回転から、一気にパワーを解き放つ。白球はどこまでも飛んでいく。だからキャンプでも、オープン戦に入っても、試合前のフリー打撃を終えた高山に話し掛けたことはほとんどなかった。この「放任主義」には、超一級の素材に触れまいとする指揮官の指導方針がうかがえるし、高山の非凡さを表している。