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箱根駅伝、区間エントリーで心理戦。
優勝を狙う有力校の戦略を読み解く。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAkihiro Sugimoto/AFLO SPORT
posted2012/12/30 08:02
全日本大学駅伝で、2年連続10度目の優勝を果たした駒澤大学。アンカーとして圧巻の走りを見せたエース窪田忍は、今回の箱根駅伝でもっとも注目される1人である。
意外な戦略でのぞんできた駒大・大八木監督。
いちばん驚いたのは、駒大だ。駒大の大八木監督はオーソドックスな布陣を敷くのが定番だが、1区にスピードランナーの油布郁人(3年)、復路起用が予想された窪田忍(3年)を2区に、村山謙太(2年)をなんと山上りに起用してくる。完全に往路型の布陣を組んできたわけで、往路優勝して逃げ切る作戦だ。
しかも主将の撹上宏光(4年)、久我和弥(4年)の経験豊富な選手を補欠に入れ、戦略的なオプションも保っている。分厚い選手層が光る。
明らかにポイントは山登りの村山だろう。ここで彼がどんな走りを見せるかで駒大の順位が見えてくる。
1年生エース久保田の快走に期待をかける青学大。
予想しづらかったのが、青山学院大だ。
1年生ながらすでにチームのエースとなる久保田和真を3区に使ってきた。
戦前、原晋監督は「久保田を復路に温存できるようであれば、ウチは強いということ」と話していたが、久保田を往路に使ってきたということは、序盤で流れに乗り、その勢いを復路に生かしたいという考え方だ。そうなると、久保田はトップを奪う必要が出てくるだろう。駒大が往路重視の姿勢を出してきたことで、その思惑がどうなるか……。
不気味なのは、主将の出岐雄大(4年)、出雲駅伝で4区の区間新を出した大谷遼太郎(4年)を補欠に入れてきたこと。今季は故障に苦しんだ出岐だが、2区か5区での起用が予想される。2区で走ることになれば、設楽、窪田との対決が楽しみだ。
また、7区の小椋裕介(1年)も好調で、上位で走っていれば面白い存在になるだろう。
早稲田は5区の“小怪獣”山本での逆転往路優勝を狙う。
前回、前々回と1区を走った大迫が、今回は補欠に入った。駆け引き、である。区間オーダーを見ると、3区での起用が濃厚だ。早大としては2区の平賀(4年)で上位に押し上げ、大迫でトップに立ち、4区で先頭集団で粘ることがレースの見せ場を作ることにつながる。
渡辺監督が、
「柏原ほどの怪獣ではありませんが、“小怪獣”になれる可能性はあります」
と話す山上りの山本修平が逆転し、往路優勝することが早稲田の希望。
往路はある程度、上位でレースを進められるだろうが、6区は駒大、東洋大が充実しているだけに、早大のポイントは6区の西城裕尭(4年)がどんな走りをするかにありそうだ。
1月2日、いよいよ第89回箱根駅伝のスタートが切られる。
今回は混戦。久しぶりに各校のエース級が2区に揃い、エノック・オムワンバ(山梨学院大)やガンドゥ・ベンジャミン(日本大)らも加わって「花の2区」が復活、そして復路終盤での逆転劇があり得る――そう予想しておく。