プレミアリーグの時間BACK NUMBER
プレミアで続くゴールラッシュは、
攻撃偏重と守備の劣化が原因?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAction Images/AFLO
posted2011/11/09 10:30
チェルシー戦でハットトリックを決めるなど、ここまでリーグ11試合で11ゴールを記録したロビン・ファンペルシ。アーセナルの総ゴール23のほぼ半数を1人でたたき出している
世界的な人気を誇るプレミアリーグだが、そのサッカー自体はエンターテイメント性が高いとは言い難い。観衆を惹き付ける最大の要因を挙げれば、サッカーの華であるゴールの多さではなく、試合展開の速さとフィジカルに基づく迫力になるだろう。
ところが今季は、開幕からゴールが量産されている。10月末の第10節を終えた時点で、合計295得点を記録。観衆は、ほぼ毎試合3度の割合でゴールシーンを目撃していることになる。
中には、フルアム対QPR(6-0)のように、勝ったマルティン・ヨル監督でさえ「点を取り過ぎた」と苦笑する、“事故”のような大勝もあった。だが、優勝候補同士の対戦でもゴールラッシュが続いているのだから見応えは十分だ。通常、序盤戦での強豪対決は無味乾燥な引分けに終わることも多いが、今季は例外。昨季のトップ4がぶつかったここまでの4試合で、合計29ゴールが生まれる盛況ぶりだ。
プレミアリーグ全体に広がる攻撃重視のトレンド。
攻撃色が強まっていることは間違いない。代表的な例が、リーグ単独首位で11月を迎えたマンチェスターCだ。ロベルト・マンチーニ監督は、堅実な戦法で昨季のトップ4入りを実現したが、優勝を狙える戦力が揃った今季は積極路線に転向。試合後半に、守備要員を加えてリードを守るのではなく、攻撃要員を入れ替えてリードを広げようとするケースも増えている。その成果が、リーグ戦10試合で36得点という断トツ1位の得点数だ。
チェルシーでは、アンドレ・ビラスボアス監督が、より攻撃的なサッカーへのスタイル変更に取り組んでいる。昨季後半の移籍後は1得点のみに終わったフェルナンド・トーレスに、開幕2カ月半で4ゴール3アシストと復調の兆しが見られたのは、本人のコンディション回復と共に、チームのスタイルの変化によって最前線で孤立する場面が極めて少なくなっているからだ。
攻撃力が上がったのではなく、守備力が落ちているのでは?
しかし、守備力の劣化は、攻撃的サッカーのトレンド以上に顕著だと言わざるを得ない。
マンCは、第9節のダービーで歴史的な大勝(6-1)を収めたが、その背景には、統率を欠いた敵DF陣の落ち度がある。マンチェスターUは、0対1で迎えた後半早々にCBのジョニー・エバンスをレッドカードで失ったが、0対3と勝負を決められるまでには20分以上持ちこたえ、屈辱の大敗の予感はなかった。
だが、81分に1点を返すと、エバンスの穴埋めに投入された19歳のフィル・ジョーンズのみならず、経験豊富なパトリス・エブラまでが、数的不利を無視して反撃に固執。最終ラインの中央では、加齢で瞬発力が衰えているリオ・ファーディナンドが、周囲に空いたスペースをカバーすることも、持ち場を離れる若い相棒をコントロールすることもできないまま、終了間際の3失点に至っている。