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CL決勝対談:杉山茂樹×田邊雅之
「絶対に負けられない戦い」よりも
大事な戦いが、あるのだ!
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTakuya Sugiyama/Akira Yuzue
posted2009/05/26 11:02
バルサが先制し、マンUが攻めざるをえない状況だとオイシイ。
田邊 優勝したからなんとなく結果オーライになりましたけど、マンUのなりふり構わず勝てばいいっていう体質が露骨に出ちゃいましたね。
杉山 まあよく言えば、マンUには攻めに出るやり方も引いて守る戦い方も、どっちもできる懐の深さがあるってことなんだろうけどね。実際、今年プレミアで優勝したのも、攻撃力以上に失点の少なさに負う部分が大きかったわけじゃない? だからこそ今回は、バルサが先に点を取って、マンUが攻めざるをえない状況になったりするとおいしいよね。
田邊 マンUの出方が試合の鍵を握っている部分はかなりありますね。ただうまくしたもので、マルケスに加えて今回はアビダルとアウベスもいないから、ファーガソンにとって攻めやすい状況になっている。あのヒディンクでさえも、準決勝のセカンドレグでは、マルケスがいないということで、アネルカとドログバを使ってきたぐらいですし。
杉山 そう。もともとバルサには守備的な試合をするつもりは毛頭ないし、どのみち攻めていくしか生き残る方法はないからDFラインの腰も必然的に軽くなる。そこでファーガソンも、さらに攻めたい気持ちを刺激されると。それと忘れちゃならないのは、この試合が持つ「意味」かな。決勝は一発勝負だから凡戦が多いのも事実なんだけど、今回はバルサが相手だから、マンUもそうそうみっともない試合はできない。
田邊 「攻撃サッカー」の名折れになりますからね。
杉山 守備を固めて勝ちを狙うような戦い方をしたら、それこそ世界中のサッカーファンから馬鹿にされるよ。ただでさえバルサには、いいサッカーをするチームで、選手も自前で育てて、わざわざ自分達からユニセフに金を払ってロゴを胸につけるような志の高い集団ってイメージがある。そういうところ相手につまんないサッカーをやったら、マンUはブランドイメージもなにもあったもんじゃない。
田邊 バルサはあまりにも完璧で鼻につくところもないことはないんですけど(笑)。マンUは引いて守って力業で勝ったりすると、「結局金の力で押し切った」って言われることになりますからね。スポンサーの件とかも含めて、広告代理店がプロデュースしたチームみたいに見えちゃう。
サッカー界の今後の方向性を決めかねない、重要な試合。
杉山 バルサは撃ち合って負けても別に痛くないんだよね。最後まで理想を貫こうとして美しく散りましたという。だからマンUも勝負にこだわるなとは言わないけど、それ以上にプロセスにこだわって欲しいよね。そしたら仮に負けたとしても、長期的には十分に元がとれるし、お釣りだってもらえる。
田邊 絶対に格好の悪いことはできない。ある意味でマンUにとっては「絶対に負けられない戦い」以上に大事な戦い(笑)。
杉山 今回の試合は、技術だとか戦術とかのスタンダードから見ても、今考えられる一番理想的な組合せにもなってるしね。
田邊 ちょっと大仰な言い方をすると、サッカー界の今後の方向性を左右する試合だといっても過言じゃないと思います。
杉山 うん。CLっていうのは、ヨーロッパの人たちとかクラブのサポーター以外にとっては突き詰めると所詮「他人の喧嘩」でしかないんだけど、サッカーという競技そのものが、世界中でファンをどこまで増やせるかにもこの試合は直結してくるわけだから。
田邊 ましてや日本では、CLとか欧州サッカーに対する熱が以前よりも醒めてきているなんてことも言われてるわけですし。
杉山 でもさ、ここまで期待させておいて、世紀の凡戦になることもあるのが……サッカーだから(笑)。ヨーロッパ・サッカーファンのみんなには、心で熱くなっても頭ではクールに観戦して下さい、と言っておきたいね。僕なんかそれで過去何度となくガックリきてんだからさ(笑)。