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<ダークホース探訪> フィオレンティーナ 「セリエCからの逆襲」 

text by

豊福晋

豊福晋Shin Toyofuku

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photograph byRyu Voelkel(T&t)

posted2010/03/01 10:30

<ダークホース探訪> フィオレンティーナ 「セリエCからの逆襲」<Number Web> photograph by Ryu Voelkel(T&t)

バール『マリーザ』に飾られているルイ・コスタとバティの写真

“ロベルト・バッジョの再来”と言われる弱冠20歳のアイドル。

 ローマ戦の2日後。スタジアムの近くのトラットリアに、昼食をとる選手たちの姿があった。

 たくさんの野菜が入った特製サラダ。ポモドーロのペンネからはもくもくと湯気があがっている。

 1月に加入したばかりのアルゼンチン代表MFマリオ・ボラッティが、少し遅れて店に入ってくると、選手たちからはからかうような拍手が起きた。

 なぜか私服の主将、モントリーボは笑顔でマルキオンニと話している。その傍らでコーチ陣とパスタを頬張るプランデッリ。

 選手たちはゆっくりと時間をかけて食事を終えると、思い思いに外へ出て、2部練習の間の少しばかりの休憩を楽しむ。

 そんな中、ステバン・ヨべティッチは、おとなしそうに若手選手たちと話していた。

 弱冠20歳の童顔に、一昔前のロングヘア。モンテネグロ出身の彼は、昨年9月末、一夜にしてこの町のアイドルとなった。

 その日、フィオレンティーナはCLでリバプールを2-0で破る快挙を達成する。2得点を決めたのはヨべティッチだった。地元紙は歴史に残る勝利と書き立て、2-0のロゴ入りのマフラーやポスターなど、記念グッズが街に溢れた。

「あの夜は家に帰ってからも眠れなかった。ジェラードやトーレスのいるリバプール相手に、僕の2点で勝ったと思うと、鳥肌が立ってね」

定位置確保したヨべティッチが攻撃の中心に。

 フィレンツェの地を踏んだのは18歳のときだった。初めて異国に住み、新たな環境の中でセリエAという厳しいリーグへの適応は簡単ではなく、1年目はそれほど大きなインパクトを残せなかった。しかし、今季は決定的な試合での活躍も目立つ。

「ヨべティッチはこの1年で想像以上に伸びた。昨季はゴールへの意識が強すぎる場面も目立ったが、今季は自信もついて冷静に状況判断ができるようになった」とプランデッリ監督も評価する。

 フィレンツェの一部のファンの間では“ロベルト・バッジョの再来”ともいわれている。

「バッジョ? あんな偉大なカンピオーネになれるといいけれどね」と本人は謙遜するが、柔らかなボールタッチには、どことなく若き日のバッジョの姿が宿る。

 ムトゥがドーピング違反で出場停止になったことも、結果的にヨベティッチの定位置確保へとつながり、現在では彼が攻撃の中心になりつつある。

「バイエルン戦でも点をとりたい。リベリーも復帰するみたいだし、もちろんバイエルンは強い。でもフィオレンティーナは欧州の舞台でも結果を出せると思うんだ。何としてもCLベスト8に進みたいね」

 混み始めたトラットリアを出て、スタジアムまでの坂道を下っていく。

『マリーザ』の目の前、スタジアムの柵に、紫の文字で横断幕が貼られていた。

“あきらめるな!”

“モントリーボ、いけ! キャプテン!”

 バティストゥータとルイ・コスタの時代から10年。

 フィレンツェの人々を熱狂させたそんな幸せな時代を、若きモントリーボとヨべティッチは再現できるだろうか。

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