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<ダークホース探訪> フィオレンティーナ 「セリエCからの逆襲」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byRyu Voelkel(T&t)
posted2010/03/01 10:30
バール『マリーザ』に飾られているルイ・コスタとバティの写真
4部リーグというどん底からわずか7年で掴んだ希望。
紫のユニフォームは、欧州の舞台でさらなる“驚き”をもたらせるか。
フィレンツェはギベルティ広場の一角に、フィオレンティーナの選手がよく訪れる、小さなリストランテがある。
リストランテ・セモリナ。
セリエA第23節、フィオレンティーナ対ローマ戦の翌日、薄暗いカウンターに、モレノ・トリチェッリの姿があった。
元イタリア代表サイドバック。名将ジョバンニ・トラパットーニ監督に見いだされユベントスで活躍し、1998年からは4年間フィオレンティーナでプレーした。
決して器用な選手ではなかったけれど、闘争心を前面に押し出し、長髪をなびかせて走る姿は印象的で、フィレンツェのサポーターの間でも人気を誇っていた。
「このチームには勝負強さが足りねえ」とモレノはつぶやいた。
「昨日の試合? もちろん見たさ。確かに今のフィオレンティーナには上手い選手が多い。でもな、サッカーってのはな、どんなにいい試合をしても、結局はボールを枠に入れなきゃならねえんだよ、枠に。このチームには何かこう、そんな勝負強さが足りねえ」
前夜のアルテミオ・フランキには、ファンのもどかしい声が響いていた。フィオレンティーナは試合を支配するもチャンスを外し続け、あろうことかローマはたった一度のチャンスをものにする。チェーザレ・プランデッリ監督は「これもサッカー」と肩を落とし、静かにミックスゾーンを後にした。
ここ4試合で勝ち点はわずか1。順位は今シーズンで最低の11位となった。
トリチェッリの頭上のテレビ画面には、トスカーナ地域リーグの試合が流れている。彼は煙草をふかし、ワイングラスのキャンティをぐいっと流し込んだ。
「10年くらい前、昔はもっとこう、力強さがあったんだけどなぁ」
そのつぶやきに店の支配人も応じる。
「モレノがいた頃のチームはすごかった。本当に夢を見させてくれたもんだ」
カウンターの上には、9番のバティストゥータのユニフォームが大事そうに飾られていた。