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<ダークホース探訪> フィオレンティーナ 「セリエCからの逆襲」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byRyu Voelkel(T&t)
posted2010/03/01 10:30
バール『マリーザ』に飾られているルイ・コスタとバティの写真
10年前の黄金時代を知る地元ファンは厳しくチームを見守る。
フィレンツェの人々は、今も10年前の輝かしい時代を忘れられないでいる。
バティストゥータがCLのアーセナル戦で決めたウェンブリーでのゴール。ルイ・コスタの舞うようなドリブル。キエーザにミヤトビッチもいた。彼らのプレーに、アルテミオ・フランキは揺れた。そんな記憶が鮮明に残っているがゆえに、現チームへの評価はとても厳しい。
スタジアム横のバール『マリーザ』には、真昼間から中年男性および老人が集い、活発かつ有益な議論がなされている。
クラブの広報部で働くアレッサンドラ・ゴッツィーニは少々呆れ顔だ。
「批判は多いわよ。でもそれがトスカーナの、フィレンツェの人々の性格。愛情の一つよね。それにこのクラブは一度死にかけたところから這い上がってきた。人々の期待は大きいのよ」
2002年、フィオレンティーナの幸せな時代は突然終わりを告げた。経営悪化したクラブは破産し消滅。4部に相当するC2から再スタートすることになったのである。主力選手のほとんどがクラブを離れていった。
しかし4部でも年間パスを買い続けた熱心なサポーターの支持もあり、どん底からの復帰は早かった。1年でC1に昇格すると、これまでの功績を考慮してという、実にこの国らしい決定により飛び級でBへ昇格。そして'04年にはセリエA復帰を果たす。
CLで1位突破を決めても辛口のファンは「まだまだ」。
翌年には現在イタリアで最も評価されるチェーザレ・プランデッリが監督に、選手発掘の天才といわれるパンタレオ・コルビーノがスポーツディレクターに就任した。セリエAでもここ2シーズンは4位で終え、2年連続でCL出場を決めている。
それでもね、とアレッサンドラは笑う。
「ここの人たちは満足しないの。今季CLで1位突破を決めたときだって、厳しい人は“まだまだ”なんて言ってたんだから」
マリーザの店内、その日のホットな話題は、ドーピング検査で陽性となり出場停止中のアドリアン・ムトゥについて。そしてしばらく得点から遠ざかっているアルベルト・ジラルディーノはどうすれば点が取れるのか、であった。