プロ野球PRESSBACK NUMBER
「江川さん、キャッチボールしましょうか」孤独な江川卓に声をかけた西本聖…永遠のライバルの本当の関係性とは「誘いあってゴルフにも行った」
text by

元永知宏Tomohiro Motonaga
photograph byKazuhito Yamada
posted2026/08/01 11:01
チームに合流した江川はまだ孤独な存在だった。彼をライバルと思い定めた西本だったが、そんな江川に声をかけて……
「これでファウルを打たせよう、これで三振を取ろうという感じでしたね。同じカーブでも角度や曲がり幅をちょっとずつ変えながら。ストレートとカーブだけであれだけ勝てるピッチャーは少ないんじゃないですか」
日本のプロ野球、メジャーリーグで通算208勝を挙げているダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)は10種類以上の球種を持つと言われている。大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)も160キロのストレートを持ちながら、スイーパー、カットボールなど6種類の変化球を駆使する。
「江川さんはコントロールがよかったから、ふたつの球種だけで打ち取ることができたんでしょう。『この高さにストレートを投げれば三振が取れる』とわかっていたはずです」
江川と自分は違う。ならばどうするか
ADVERTISEMENT
江川をライバル視した西本はその投球術にうなりながら、自身の持ち味について考えることになった。
「江川さんのような力強いストレートは投げられない。スピードで勝負をしてもかなわない。でも、僕にはシュートという武器がありました。
三振を取るためには最低でも3球が必要ですけど、ランナーがいる場面なら、シュートでゴロを打たせて1球でふたつのアウトを取ることができます。僕がプロ野球の世界で生き残るためには、シュートを武器にするしかない。打たせて取るピッチングを磨こうと思いました」
その年、江川と西本はほぼ同じイニング数を投げているが(江川が161回、西本が153回)、奪三振数は江川の138に対して、西本は85だった。
西本はシュートを武器に自身のポジションを確立していった。
「当時はシュートと言っていましたけど、今だったらシンカーになるのかな。ゴロを打たせてアウトを取るというピッチングができるようになったのがその年くらい。『こういうピッチングをすれば勝てる』というのがつかめました。
面白いようにアウトが取れるし、ヘタしたらバッターが自打球を当ててケガをすることもある。ちょっとあとのことだけど、中日ドラゴンズにチャーリー・スパイクスという選手がいて、僕のシュートを打って自打球を膝に当てて骨折したことがあります」
「空白の一日」で批判を受けながら巨人に入団してきた大物ルーキーの加入によって、西本は38歳までプロ野球で生きる方法を見つけたのだった。
〈つづく〉


