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「東北No.1だった…“消えた天才”ピッチャー」仙台育英・須江監督が忘れられない15歳中学生…今年のドラフト取材で思い出した「大谷翔平世代の神童」
posted2025/12/10 11:04
今年のドラフトを前に取材に応じた仙台育英・須江航監督
text by

中村計Kei Nakamura
photograph by
Kei Nakamura
その筆者が今年のドラフト当日に見た、“指名漏れの現実”。数十秒の沈黙……高校野球の名将はそのとき何を語るのか? 仙台育英高校で「スケール感は過去イチ」と絶賛された逸材に密着した。【NumberWebノンフィクション全4回の2回目/第1回~第4回も公開中】
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ベンチプレス105kg、“競輪選手ばり”の太もも…
未開の才能を「原石」と表現することがよくあるが、そこへいくと高田庵冬は須江航にとってまさに原石だった。
「あのサイズ感で、サードが守れて、走れて、投げられる。野球もいいですけど、アメフトをやったらすぐにでも世界で戦えると思いますよ」
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この夏の甲子園でのことだ。8月14日、全国高校野球選手権の2回戦で仙台育英は島根代表の開星に6−2で勝利した。試合後、須江は8回に左中間スタンドへ豪快なソロ本塁打を放った8番・高田庵冬に話が及ぶと、そう冗談とも本気ともつかない言い方をした。
選手の可能性について語るときの須江はいつでもそうなのだが、本当に生き生きとしているし、楽しそうだ。
「あのサイズ感」と言われても遠目から眺めているだけではピンとこなかったのだが、ミックスゾーンで高田の体つきを目の当たりにし、須江の言っている意味がよくわかった。
太い首、広い肩幅、厚い胸板、競輪選手のようにパンパンに張った太もも。高田のシルエットは、まるでユニフォームの下に、それこそアメフトのプロテクターを装着しているかのように見事な逆三角形だった。
仙台育英のトレーニング場には「フィジカルは正義」の文字が掲げられている。部員にとってウエイトトレーニングは必須科目だ。高田にベンチプレスはどれくらい持ち上げるのかと尋ねると、「105キロぐらいですね」と返ってきた。
口ぶりも落ち着いていて、その風格ある佇まいは、どう考えても8番打者のものではなかった。
ベンチプレスで100kg以上持ち上げられる高校生はそうはいないが、高田の打球と体つきを見たあとだと、まったく驚かなかった。
「大化けしたらメジャーまでいける」
高田の打球は上がった瞬間、入ったと確信させる当たりだった。そのときだけ球場が狭くなったような、そんな錯覚を起こさせるような一打でもあった。
高田は9月から10月にかけて開催された国スポでも準決勝の高川学園戦でレフトへ弾丸ライナーのホームランを放っている。そのときの一打を動画サイトで見て、誰に似ているかようやくわかった。西武の元主砲で、2002年に当時の日本記録に並ぶ年間55本塁打をマークしたアレックス・カブレラである。それくらい高田のスイングや当たりは日本人離れしているように映った。
国スポの準決勝で敗れたあと、プロ志望届を提出する予定だった高田について須江は報道陣を前にこうぶったという。


