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「高田は4球団、吉川は10球団の調査書が来ていた」ドラフト“まさかの”指名漏れウラ側…記者が密着、仙台育英の名将が語った「“育成指名はNG”の理由」
posted2025/12/10 11:03
仙台育英高校で「スケール感は過去イチ」と絶賛された高田庵冬。筆者はドラフト前から彼を取材した
text by

中村計Kei Nakamura
photograph by
Kei Nakamura
その筆者が今年のドラフト当日に見た、“指名漏れの現実”。数十秒の沈黙……高校野球の名将はそのとき何を語るのか? 仙台育英高校で「スケール感は過去イチ」と絶賛された逸材に密着した。【NumberWebノンフィクション全4回の1回目/第2回~第4回も公開中】
◆◆◆
その場が静まり返った。
10月23日、19時4分――。
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仙台育英高校のグローリーホールにドラフト会議の中継を映し出していたテレビの音声が響く。
〈第8巡選択希望選手。オリックス。選択終了です〉
全球団の支配下指名が終了した瞬間だった。
それは同時に今年の仙台育英のドラフトが終わったことを意味してもいた。
テレビの真ん前に用意された長机にはプロ野球志望届を提出していた3年生の高田庵冬と吉川陽大、そして監督の須江航が腰をかけていた。
高田は下位打者ながらも規格外の長打力と身体能力を持つ右投げ右打ちの野手で、吉川は小柄ながら最速147キロを誇るエース左腕だった。
3人とも微動だにせず12球団目の「選択終了」のアナウンスに耳を傾けていた。
この後、育成選手の指名を控えていたが、仙台育英では原則的に育成枠での指名は受け付けていない。育成指名による入団を推奨しない理由を須江はこう語る。
「経済的な理由等、さまざまな理由で大学に進学できない高校生の場合は育成というシステムは救いになると思います。ただ、育成で指名されるような選手の場合、それなりの進路先は見つかりますから。となると、高校から育成という進路は人生の選択肢を狭めてしまうなと感じるんです。育成は未熟な段階であるにもかかわらず、時間的リミットがある中で結果を出さないと戦力外になってしまうという非常に厳しい契約です。育成のメリットとデメリットでいうと、うちの選手の場合はデメリットの方が大きいなと思うんです」
「高田は4球団、吉川は10球団の調査書が来ていた」
3人の後ろでは約70名の部員たちが体育座りの姿勢で仲間の運命の瞬間を見守っていた。部員たちは各球団の〈選択終了〉というアナウンスが響くたびに大きなため息をついていたが、高田と吉川を気遣ったのだろう、嘆息のトーンは段々と小さくなり、オリックスのときはただ黙って聞いていた。


