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「泣いてるの?」楽天2位指名ピッチャーが恩師に電話、“悔し涙”も…仙台育英、ドラフト“緊迫の現場”で見た「西武3位指名、須江監督がホッとした瞬間」

posted2025/12/10 11:05

 
「泣いてるの?」楽天2位指名ピッチャーが恩師に電話、“悔し涙”も…仙台育英、ドラフト“緊迫の現場”で見た「西武3位指名、須江監督がホッとした瞬間」<Number Web> photograph by Kei Nakamura

10月23日、仙台育英高校。ドラフト会議のテレビ中継を見つめる須江航監督。プロ野球志望届を提出していた3年生の高田庵冬(左)と吉川陽大(中央)

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中村計

中村計Kei Nakamura

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Kei Nakamura

 かつて大谷翔平よりも“天才”と呼ばれた同世代がいた。天才たちは、30歳になってどうなったのか? 彼らの現在を追った書籍『さよなら、天才 大谷翔平世代の今』が発売され、話題になっている。
 その筆者が今年のドラフト当日に見た、“指名漏れの現実”。数十秒の沈黙……高校野球の名将はそのとき何を語るのか? 仙台育英高校で「スケール感は過去イチ」と絶賛された逸材に密着した。【NumberWebノンフィクション全4回の3回目/第1回第4回も公開中】

◆◆◆

なぜ“8番打者”がドラフト候補に?

 高校野球の指導者が今後、高田庵冬に何ができるかは限られるものの、今度こそ、須江航は教え子がメジャーリーガーになるまで、あるいはそれクラスのビッグプレーヤーになるまで遠くから伴走する覚悟なのだと思った。

 ただし、渡辺郁也と高田はタイプ的にはまったく異なる。第一に渡辺が早熟だったのに対し、高田はまだ発展の端緒をようやくつかんだ段階の選手に過ぎない。あえて言うならば、典型的な大器晩成型だ。

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 高田の打順は通常だと8番、上げても6番までだった。その理由を須江はこう語った。

「彼の弱点は打率の低さからもわかるようにコンタクト力。まだまだ、ボールの軌道にスイングがうまく入っていかない。いいときはいいんですよ。ただ、まだ本物の再現性は獲得できていない。昨日、あんなによかったのに、今日はこんな感じなんだ、みたいな。でも、そこにとらわれるよりも、スケールの大きな選手に育てたかったので、打席の中で制限を与えたくなかった。打球方向を限定するとか、ゴロを打たせるとか。そう考えると、8番くらいがいいじゃないですか。せめて6番ぐらいですね。でも、おそらく甲子園で何かつかんだと思うんですよ。甲子園のあと、国スポに向けて3年生は大学生とオープン戦をしてたんですけど、素晴らしい当たりを連発していましたから」

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 高田が変化のきっかけをつかんだのは甲子園の1回戦のあと、尼崎のバッティングセンターで練習していたときのことだった。同施設はバッティングセンターとしては珍しく硬球用の打撃マシンもあるため、大会期間中は仙台育英だけでなく他の出場校の選手たちも頻繁に訪れるのだという。高田が振り返る。

「1回戦と2回戦の映像を見比べたら、フォームがぜんぜん違うのがわかると思います。1回戦のときは形を意識し過ぎて、カチッとしていたというか、前屈みになっていた。でも、バッティングセンターで脱力することを意識したら、すごいスムーズにバットが出てくるようになって。バットを構えるのではなく、宙に置くだけみたいな感覚です。ぜんぜん力感のないフォームになりました。そのいい感覚は今も続いてます」

 須江は高田が入部してから今まで、フォーム等の具体的なアドバイスをしたことは一度もないという。伝えたことは、たった1つだ。しかし、そのことを呪文のように言い続けてきた。

「バックスクリーンにホームランを打ちなさい」

【次ページ】 「プロ志望届は出さないつもりだった」

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