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「高田は4球団、吉川は10球団の調査書が来ていた」ドラフト“まさかの”指名漏れウラ側…記者が密着、仙台育英の名将が語った「“育成指名はNG”の理由」
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中村計Kei Nakamura
photograph byKei Nakamura
posted2025/12/10 11:03
仙台育英高校で「スケール感は過去イチ」と絶賛された高田庵冬。筆者はドラフト前から彼を取材した
重苦しい空気が立ち込めていた。
3人の視線が宙を彷徨う。
5秒、10秒、15秒、20秒、25秒……。
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テレビ中継の言葉は、もう誰の耳にも届いていないようだった。
沈黙を最初に破ったのは須江だった。立ち上がるなり、テレビに近づいていき、リモコンを操作し電源を切る。そして、選手たちの方に向きを変え、言った。
「お疲れ様でした。結果は大変残念でしたが、最初に話していた通り、今日は(新たな)スタートということになりました」
須江はドラフト会議が始まる直前、選手たちにこう語りかけていた。
「まず、いちばんに伝えたいのはプロ志望届を出している、そして、調査書をいただいているということ自体が大変尊いことだということです。出すに至った道のりが尊いわけですよね。途中で(野球を)辞めたいなと思ったときもあると思うんです。でも、そういうときに仲間がいたからがんばれたというのも事実だと思うので、今日は、ここにいるみなさんのドラフトだなと思っています。指名されなくても、終わる日じゃなく、何かが始まる日です。みなさんも、高田も、吉川も、今日からがんばるんだという決意の日になると思うので、長い時間になりますけど、どうぞ最後までお付き合いください」
調査書とは球団サイドが選手に対して送付する簡単なアンケートのようなものだ。調査書のやりとりは、その内容よりも球団が指名を検討していることを選手側に伝える意味合いの方が強いとも言われている。
高田には4球団、吉川には10球団から事前に調査書が届いていた。須江はドラフト前、こう話していた。
「数で言えば吉川の方が多いですが、高田に来た4球団は濃さが違いますね。何回も確認しましたから。本当に高田の調査書が必要ですか? って。なので、その4球団はどこが指名してきてもおかしくないと思っています」
須江は展開次第では吉川は4位あたり、高田に関しては指名があるとしても5位以下だと読んでいた。
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未開の才能を「原石」と表現することがよくあるが、そこへいくと高田は須江にとってまさに原石だった。
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