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「あ…阪神の田村さんですか?」体ボロボロ37歳で戦力外通告、警察から職務質問も…阪神投手の引退後「学生に混じって猛勉強」“元天才”の再起
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岡野誠Makoto Okano
photograph byNumberWeb
posted2025/11/01 11:01
かつて阪神で活躍した田村勤さん(60歳)
学生に混じって猛勉強の日々
「周りは、20歳前後の学生ばかりでした。先生は僕のことを知っていて、テストを返す時に『今回頑張りましたね、2位ですよ』とみんなの前で言うんですよ。そうすると、成績を落とせないじゃないですか。あれは辞めてほしかった(笑)」
田村にとって、野球も勉強も同じだった。
「教科書を1、2回読んでも頭に入らない。野球でも、天才は2、3球でスプリットを覚えるかもしれないけど、僕は100球投げても200球投げても、なかなか習得できないタイプでした。勉強も同じで、とりあえず『投げ込むしかないだろう』みたいな感じで、10回くらい読み込みました」
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彼は自身を天才とは思っていない。不断の努力と諦めない姿勢で、栄光を掴んだのだ。一方で、ケガは引退後も後遺症として伸し掛かった。
「書くと手が痺れてくるので、とにかく読んで頭に入れるしかなかった。風呂でも目を通していました。何度も湯船に落としたから、教科書がベロベロになりましたよ(笑)。あとは、ICレコーダーを活用しました。自分で作った問題を吹き込んで、数秒後に答えを言う。その録音を聴きながら、散歩をしていました。夜は家にいると寝ちゃうから、よく公園で勉強していました」
職務質問も…「あ、阪神の田村さんですか」
いつものようにベンチに座って、教科書を読んでいると、警察官に声を掛けられた。
警官:何してるんですか?
田村:勉強しているんですよ。
警官:この辺りで痴漢があったんですが、ご存知ないですか? ご職業は?
田村:あのねえ、一日署長したことありますよ。甲子園球場前の公園でね。
警官:……あ、阪神の田村さんですか。大変失礼しました。交通安全のために頑張ってくださって、助かりました。
「『ちょうど同じ日、宝塚歌劇の人も近くで一日署長してましたよね』と聞いたら、その警官が『そっちは派手な方で、こっちは地味な方にしたかったんです』って(笑)」
1000日を超える勉強の末、資格を取得。兵庫県西宮市の「田村整骨院」は盛況となり、高校や大学で野球の指導も本格的に始めた。傍から見れば、第二の人生を順風満帆に送っていた。しかし、心は吹っ切れていなかった。
〈つづく〉

