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甲子園の風BACK NUMBER
福岡にいた「20年に1人の天才投手」なぜ地元の高校は獲得逃した? 織田翔希は北九州から横浜へ…有望中学生の県外流出ウラ側「織田の存在は知っていた」
text by

樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/09/05 11:07
中学時代、福岡で「20年に1人」の逸材といわれていた織田翔希(現・横浜)。なぜ地元の高校は獲得を逃したのか
その中の一つ。低反発バットが一つのキーになると考えている。
「今年の甲子園を見てもわかるように、低反発バットになってパワーがなくなったということは、接戦に持ち込める。タイブレークになってからの戦術が肝になる」と話す。そして「それを支える守備力、投手力が土台になる」という見立てだ。
公立校にとってはむしろ追い風となるかもしれない。スカウティングで集めた大型選手の優位性が薄れ、地元の選手でも工夫次第で接戦に持ち込める試合状況が生まれている。現在の東筑は、夏を経験したピッチャー深町光生、梶原大和、佐藤主税の2年生トリオが残り、正捕手・平山護も残っている。決して絶望的な状況ではないと青野は話す。
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山下聖士新監督も「秋の新人大会で、九国大付、戸畑に競り勝って優勝。好スタートをきれました。周りからは『楽しみだね』って言われているチームです」と手応えを感じている。
「強い私学を倒して甲子園に…」
「抗っていきたいですよね。バットにも他の強豪校にも」
取材中、青野は何度も「抗う」という言葉を口にしていた。県外に流れる中学生、そして県外から選手を集め強化する私学。この狭間の中で戦う、公立校としてのプライドがあるのだ。
センバツ出場を果たした高3の夏、県大会の決勝で村田修一(元横浜ベイスターズほか)擁する東福岡に敗れた山下新監督も同じ思いを抱いている。
「強い私学を倒して甲子園に行きたいと思って県立の先生になっているわけですから、その火だけは燃やしていきたいですよね」
青野から受け継いだ「抗い」の精神は、確実に次の世代に引き継がれ、新たな東筑野球の歴史が始まろうとしている。11月ルールという制約、限られた練習環境、そして低反発バットという新たな条件。すべてを受け入れながら、それでも甲子園を目指す。それが公立校・東筑の「抗い」の形なのである。

